1.背景
連合攻撃は、2頭以上の個体が共同で同じ個体を攻撃する行動です。霊長類のメスの連合は多くの場合、血縁のあるメス同士で、メス間の順位や食物を巡る競争のために形成されます。チンパンジーと近縁な類人猿であるボノボ(Pan paniscus)においてはメスが集団を移籍するため、集団内のメス同士に血縁関係はありませんが、それにもかかわらずメスの頻繁な連合攻撃行動がみられます。全てのオスがメスよりも優位であるチンパンジーの社会とは違い、ボノボはメス優位な社会を持ちます。また、メス同士は頻繁に親和的交渉を行います。ボノボにおけるメスの連合は、メスの優位性を維持するために重要であり、メスは連合関係を維持・促進するために親和的交渉を行うと考えられてきました。しかし、実際にメスがどのように連合を形成するのか明らかにされていませんでした。この研究ではボノボにおいて、メスの連合が親和的関係や互恵性に基づいて形成されているかどうか、コンゴ民主共和国ルオー学術保護区に生息する野生ボノボの一群を対象に観察を行いました。
2.研究手法・成果
メスの連合攻撃はすべて、オスを攻撃対象としており、特にオスがメスに対して攻撃的に振る舞った直後に多く行われました。メス同士の毛づくろい行動や近接、性器こすり行動といった親和的交渉の頻度と、そのペアが連合を形成する頻度との間には有意な相関がありませんでした。連合を組む際の攻撃の支援関係は互恵的ではなく、年上のメスが年下のメスを支援するという一方向的な関係がみられました。オスとの1対1での攻撃交渉において、メスの勝率は老年メスが84%、中年メスが64%、若年メスが24%であった一方、連合を組むとメスは100%オスに勝つことができました。
メスは強い親和的関係を結んだメスを選んで連合を組むわけではなく、年下のメスがオスから攻撃を受けた時に、年上のメス(達)がそのメスを助けるという形で連合が形成されていました。若いメスはオスよりも地位が低いが、年上のメスの支援によりオスからの攻撃を恐れずに集団に参加することができると考えられます。年上のメスは年下のメスへのオスの攻撃的行動に対し、協力して繰り返し報復を行うことでオスの攻撃性をコントロールし、全体としてのメスの優位性を維持することで利益を得ているのだと考えられます。さらに、年上のメスは、支援を期待する年下のメスを自分の周りに集めることで、自らの息子により多くの交尾機会を与えることができると考えられます。親和交渉は連合形成と直接の関係はないものの、頻繁な親和交渉でメスは寛容性を高め、メスの凝集性も高めることができると考えられます。
3.波及効果、今後の予定
霊長類のメス同士の社会関係には血縁が強く関係しており、オスが出自集団に残り、メスが移籍する「父系」の集団形態を持つ種ではメスの社会的絆は弱いことが知られています。父系集団であるにも関わらず、メス同士が強い絆を結ぶボノボの社会は非常に例外的です。ボノボのメスが連合を結ぶ意義、そして連合と凝集性、親和的交渉との関係を明らかにした本研究は、女性が分散する傾向が強いヒトにおいて、女性同士の社会関係の進化を議論する上で重要であると考えられます。
4.研究プロジェクトについて
本研究は日本学術振興会と、国連大学「アフリカでのグローバル人材育成プログラム(GLTP)」の支援を受けて行われました。
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Journal
Animal Behaviour