月探査機GRAIL(Gravity Recovery and Interior Laboratory:グレイル)からのデータを基にした2つの新しい研究によって、月では最も新しく大きい最も保存状態のよいクレーターのひとつであるオリエンタル盆地について、解明が進んだ。GRAILは2機の探査機で月面を飛行し、によりその軌道が重力場によっていかに摂動させられるかを詳細に計測する。1つ目の研究ではこのクレーターの物理的特性が述べられており、2つ目の研究ではその形成方法について詳細に説明されている。1つ目の研究では、Maria Zuberらが月の重力場の詳細な地図を使って、クレーターの3重のリングおよび内側のくぼみの構造を調査した。これらのリングはGRAILミッションのはじめには一部しか解像されていなかったが、この探査機はオリエンタル盆地の表面から2kmの低空を飛行するようになると、かつてない解像度でデータを得ることに成功した。このデータから、オリエンタル盆地現在の直径は930kmなのに対して、トランジェントクレーター(衝突後すぐに形成されたクレーター)の直径は320~460kmであり、今日みられるどのリングとも一致しないことが示唆され、さらにはその後の地質学的な弛緩によって見えなくなっていたことが明らかになった。著者らは、衝突時に、月の地殻から最低でも約3.4 × 106km3の物質が飛び散って周りに積もったと計算している。彼らの推定によると、この物質の約3分の1は、クレーターの縁に戻って堆積し、この地域の月の地殻が厚くなる一因になったという。また、オリエンタル盆地の表面構造における非対称性は、断層に沿って表面下まで及んでいるようだという。著者らは、この断層は盆地の形成以前からあったと示唆している。
2つ目の研究では、Brandon JohnsonらがGRAILのデータを用いて、多重リングを含めたオリエンタル盆地の形成を再現している。シミュレーションの結果、衝突の円筒部径が64kmで秒速15kmとした時にGRAILのデータと一致した。著者らは衝突によって最大で深さ約180kmのお椀型のクレーターが最初にできたが、このくぼみは不安定で重力崩壊を起こしたことが示唆された。シミュレーションでは、最初のクレーターが崩壊すると、既存の断層によって石の内部の温かく弱いマントル物質が内側に流れ込み、その結果次の崩壊が起こって、オリエンタル盆地の外側の2つのリングが形成された。その時点では、最初の衝突で噴出した物質はすでに沈着していた。シミュレーションによって、最初の衝突から3時間後には、盆地中央は現在の位置より約7km深くにあり、衝突後の応力状態に応じて中央部は現在の位置まで徐々に上昇したことが示唆された。このオリエンタル盆地の形成を改めて理解することで、地球にあるものも含めて、太陽系全体に存在する大きなクレーターについての研究がさらに深まった。
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