熊本大学 小畑弘己教授は、X線装置を用いて、九州・宮崎県役所田遺跡から出土した縄文時代後期の土器片(3,600年前)から28点のコクゾウムシ圧痕を発見しました。コクゾウムシ大量混入圧痕土器は、九州においては、初めての発見です。また、今回発見された土器のコクゾウムシの圧痕密度は、これまでに日本国内で発見された土器の中で、最も高いものでした。
圧痕とは、土器の表面や断面についたタネやムシの痕跡のことで、これを探る土器圧痕法という研究方法が2003年頃から取り入れられています。圧痕の中でも特に、目視で確認できない圧痕を可視化する方法がX線CTを用いた土器圧痕法です。この方法によって小畑教授の研究グループは、2010年に種子島で1万年前のコクゾウムシの圧痕を発見しました。コクゾウムシは、従来、イネとともに朝鮮半島から渡来したと考えられていましたが、この発見によって、イネの伝播よりはるかに昔から日本に存在していたことが明らかになりました。
更に、小畑教授等のグループは、2012年には青森県の三内丸山遺跡で、2013年には北海道の館崎遺跡で、コクゾウムシの圧痕を発見しました。本来クリが自生しない北海道や東北地域に縄文人が持ち込んだ事はいくつかの研究によって証明されていましたが、小畑教授等のグループによって、クリを持ち込まれた際に、コクゾウムシも持ち込まれていたことが証明されました。これによって、食料害虫であるコクゾウムシの人為拡散説が裏付けられました。
宮崎県の役所田遺跡では、土器の粘土内からコクゾウムシのみならず、ドングリの皮の混入も確認されました。この発見によって、堅果類貯蔵とそれを加害した害虫の関係が間接的に裏付けられるとともに、私たちの想像以上に縄文人たちの周囲にたくさんのコクゾウムシがいたことが証明されました。
小畑教授は次のようにコメントしています。「コクゾウムシのような食料害虫が縄文時代にも存在していたこと、そしてそれらを蔓延させた原因が定住的な生活様式と食料の運搬・交易であったことは、現代社会の疫病や災害が自然の力だけでなく、人の集住や物資の移動などによって拡大されている現象とまったく同じであり、現代社会を考える上での教訓ともなり得る」。
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本研究成果は、学術雑誌「Journal of Archaeological Science Reports」に2020年10月9日に掲載されました。
Source: Obata, H., Miyaura, M., & Nakano, K. (2020). Jomon pottery and maize weevils, Sitophilus zeamais, in Japan. Journal of Archaeological Science: Reports, 34, 102599. doi:10.1016/j.jasrep.2020.102599