横浜国立大学大学院工学研究院の大矢剛嗣准教授らの研究チームは電気通信大学大学院情報理工学研究科の塚本貴広助教らの研究チームと共同で、昇華法による原料供給に基づいた、気相成長による新たなフラーレンマイクロ構造体(fullerene finned-micropillar (FFMP)と命名)の高効率な形成技術を開発しました。
フラーレンは、(C60の場合)炭素原子をサッカーボールのような形状に配置したユニークな構造の分子として知られています。分子の直径はおよそ0.7 nmと非常小さいため、応用分野では通常、フラーレンの結晶体(フラーレン構造体)として利用されています。フラーレンは、有機エレクトロニクスにおけるN型半導体として使用される重要な材料であり、有機太陽電池等に応用されています。近年では、ドラックデリバリー応用といった医療方面においても有用性が報告されており、様々な分野への応用が期待されています。
フラーレン構造体の代表例としては、繊維形状のフラーレンナノウィスカーがあり、フラーレンの溶解度が異なる2種類の溶媒の液液界面を反応場とした「液液界面析出法」とよばれる手法等で作製されています。しかし、フラーレン構造体の作製法には課題も多く、例えば、液液界面析出法では、フラーレン構造体の作製に1日以上の時間を要し、さらには、液液界面の振動が形成に大きく影響を与えることや、生成物の回収に技術が必要です。
今回、大矢研究チームは、加熱により昇華させたフラーレンを気体原料として供給し、加熱部よりも低温な領域において凝華反応を起こすことにより新しいフラーレン構造体(FFMP)を1時間程度という短時間で形成させる技術を確立しました。この技術は、気体を原料として供給することで構造体を形成するため、従来技術に比べて、形成速度が速く、振動などの外部環境の影響もなく、回収も容易となります。フラーレンマイクロ構造体を大量合成できることから、各種応用展開を容易にすることが期待されます。
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本研究は、2020年11月6日にScientific Reports誌に掲載されました。
Journal
Scientific Reports