News Release

口腔内細菌は食道がんのリスクファクターである

唾液や歯垢を用いた食道がんスクリーニング法の開発に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

The Prevalence of Oral Bacteria in Dental Plaque

image: In the dental plaque samples, the prevalence of all bacteria, with the exception of F. nucleatum, was significantly higher in the test group versus the control group. The pie charts in orange are for cancer patients, and those in blue are for healthy controls. view more 

Credit: Department of Periodontology,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科、臨床腫瘍学分野の三宅智教授と川﨑万知子大学院生、歯周病学分野の池田裕一助教らの研究グループは、同大学歯学部附属病院 口腔ケア外来、江戸川病院、総合南東北病院オーラルペリオセンターとの共同研究で、口腔内細菌が食道がんのリスクになり得ることをつきとめました。その研究成果は、国際医学誌Cancer(キャンサー)に、2020年11月6日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

食道がんはがんの死因のなかでも6番目に多く、また発症数では世界で7番目に多いがんです。早期診断が困難であり、浸潤や転移の頻度が高く、生存率が低いことが食道がんの特徴です。一方、歯周病は歯茎の炎症や出血から始まり、歯を支える骨や線維など深い組織に炎症が広がり、最終的には歯が喪失してしまう、日本でもとても高い罹患率の口腔内細菌感染症です。歯周病は糖尿病や動脈硬化などを含む全身疾患の悪化に関与していると言われています。がんにおいても歯周病がリスクを増加させる可能性があると報告されてきました。これまでいくつかの研究により、口腔内に存在する細菌や歯周病に関わる細菌が消化管のがん組織から検出されたことが報告されています。食道や胃のがん組織において口腔内の膿瘍で良く検出されるストレプトコッカス アンギノーサス菌※1が発見されたことで、消化管がんと細菌の関連がより注目を集めるようになりました。食道がん細胞をストレプトコッカス アンギノーサス菌に感染させると、発がんが促進することが知られています。これらの知見に基づいて、口腔内細菌と食道がんの関連が示唆されてきましたが、食道がんと歯周病、それぞれの臨床所見に基づいて、口腔内細菌のがんへの影響を検討した研究はこれまでほとんどありませんでした。本研究では、食道がん患者における口腔内所見と口腔内細菌叢の特徴を明らかにすることを目的としました。

【研究成果の概要】  

本学医学部附属病院消化器外科に入院した食道がんと診断された患者61名と非がんの患者62名の口腔内の診察を行い、唾液と歯茎の下の歯垢を採取しました。採取したサンプルから細菌のDNAを抽出し、リアルタイムPCR法※2を用いて7種類の口腔細菌の菌数を計測しました。食道がんの患者では非がんの患者と比較すると、歯周病の状態が有意に悪く、喫煙率や飲酒習慣が高いことがわかりました。  

歯茎の下の歯垢中には歯周病に関わる多くの細菌が有意に高く検出されました。なかでもアグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌※4はがん患者で16人検出されたのに対し、非がん患者ではわずか1名しか検出されませんでした。  

唾液では、アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌の検出率ががん患者で有意に高く、アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌とストレプトコッカス アンギノーサス菌の量ががん患者で有意に多く検出されました。  

得られた結果から食道がんのリスクとなる因子を見つけるため、ロジスティック回帰分析※5を用いて統計学的に解析を行いました。結果、飲酒習慣で17.10倍、歯垢中のストレプトコッカス アンギノーサス菌の検出で32.80倍、唾液中のアグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌の検出で5.77倍、食道がんの患者が増加するという結果が得られました。

【研究成果の意義】  

食道がん患者の長期生存率は依然として低いままです。これは食道がんの特徴である周囲の臓器や組織への急速な広がりと無症候性の浸潤が、早期発見を困難にしていることが理由です。つまり早期のスクリーニング、検出、および診断は、食道がんの重要な要素となります。本研究では、初めてアグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌が食道がんと関連することを発見しました。また、アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌やストレプトコッカス アンギノーサス菌、生活習慣のアンケート結果を組み合わせることで、迅速で簡単な食道がんのスクリーニング方法が開発できるかもしれないという臨床的重要性を示唆しています。

###

【用語解説】

※1ストレプトコッカス アンギノーサス菌
口腔常在菌。口腔内の膿瘍や歯性感染症、心内膜炎からよく検出されます。

※2リアルタイムPCR法
DNAを増幅させて、その増加をリアルタイムでモニタリングすることで、DNAの量を解析する技術です。

※3歯周ポケット深さ
歯茎と歯の間の溝の深さ。

※4アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス菌
歯周病原細菌の一種で、身体の免疫反応の際に働く細胞を壊すロイコトキシンという毒素を産生します。若年者の歯周炎や重度の歯周炎の際に検出されることがあります。

※5ロジスティック回帰分析
ある現象が発生する確率を、複数の要因の組み合わせから解析する方法です。

※6オッズ比
ある疾患などへのかかりやすさを2つの群で比較して示した尺度です。オッズ比が1より大きいと,疾患へのかかりやすさが高いことを意味します。逆に,オッズ比が1より小さいと、かかりにくいことを意味します。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.