ナメクジが分泌する一種の粘液に着想を得て、術後の傷口を効果的に塞ぐ粘着質で柔軟性のある接着剤が開発された。生物組織など湿った動く表面に貼り付ける接着剤は多数の分野で重要だが、その開発は極めて困難とされてきた。既存の接着剤は有毒であったり、組織への接着力が弱かったり、湿潤環境では使用できなかったりする。これらの課題を克服できる適切な材料を探すにあたり、Jianyu Liらはナメクジ(Arion subfuscus)が分泌する生体防御のための粘液に着目した。Liらは、粘液の特性を模倣した強力な一群の接着剤(TA)を開発した。それは強く柔軟性もあるマトリックスと正電荷を持つポリマーを含有した粘着性の表面層でできている。このポリマーが物質に貼り付くのだが、その際に共有接合など一連の物理的作用が働き、それにより接着力が特に強くなる。新しく開発されたこのTAはブタの皮膚や軟骨、心臓、動脈、肝臓にしっかりと接着する。さらに、ヒト細胞にとって有害ではないことも判明した。そこでLiらは、生体を模倣したこの接着剤の1つを用いて血液でぬるりとしたブタの心臓の欠陥箇所を塞いだ。この接着剤は心臓と親和性が高く、心臓が膨らんでその張りが100%接着剤にかかっても漏出はなかったとLiらは報告している。緊急手術と突然の失血をシミュレーションしたラットでの実験では、このTAの性能は多くの外科的処置で出血を防ぐために使用する外科用器具である止血鉗子を使うのに匹敵することを確認した。
###
Journal
Science