News Release

リソソームによる細胞内分解を制御する分子装置のユニークな組み立てを解明

ダノン病の治療やシャペロン依存性オートファジーのメカニズム解明に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Figure.1 The two-domain architecture of LAMP1 and LAMP2

image: Domain architecture and orientation of LAMP1 and LAMP2 in the lysosome lumenal membrane(left). Schematic β-prism shapes and the structures of the C-domain of LAMP1(5GV0) are shown in two perpendicular views(right).We defined the surface of the N-terminal(N) side as SideA, and that on the C-terminal(C)side as Side B. view more 

Credit: Department of Biochemistry,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科病態生化学分野の横山 三紀准教授、寺澤 和恵技術補佐員(現 リベロセラ社)、歯周病学分野の加藤 佑治大学院生(現 生涯口腔保健衛生学分野)の研究グループは、理化学研究所、シンシナティ大学、ストラスブール大学との共同研究で、リソソームの機能に重要なタンパク質であるLAMP-2の複合体形成の構造基盤を明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Autophagy (オートファジー)に、2021年4月14日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】

 リソソームは加水分解酵素を含み、細胞内での分解反応を担当する細胞内小器官です。近年リソソームには、細胞内の栄養レベルを関知するセンサー、さらに代謝を制御する司令塔としての役割があることも明らかになっています。リソソームの機能は栄養摂取、不要物の消去、生体防御に必須であり、また神経変性疾患・がんを含む多くの疾患や老化と密接に関連します。Lysosome-associated membrane protein-2 (LAMP-2)はリソソームを形成する膜に豊富に存在する、高度に糖鎖付加されたタンパク質です。発見当初LAMP-2の役割は糖衣※1を形成してリソソーム膜を内部の加水分解酵素から守ることと考えられていました。しかしLAMP-2ノックアウトマウスの解析から、LAMP-2はリソソームの形成やオートファジーの進行に重要であることが明らかになりました。LAMP-2の遺伝子変異はヒトのダノン病 (心筋症、ミオパチー、精神遅延を特徴とするX連鎖性遺伝疾患)の原因となります。近年ではダノン病に進行性網膜変性が伴うことが報告され、LAMP-2と加齢黄斑変性との関係も報告されています。またLAMP-2はシャペロン依存性オートファジー※2と呼ばれるタンパク質の分解過程に必要な因子です。LAMP-2の欠損がリソソームによるタンパク質分解に関連したさまざまな機能低下を引き起こす分子機構を解明するために、LAMP-2の複合体形成の構造を明らかにすることが望まれていました。

【研究成果の概要】

 LAMP-2の大部分はリソソームの内側に存在し、β-プリズムフォールド※3をもつユニークな三角柱(β-プリズムドメイン)が二つ連結しています。これに膜貫通領域が続き、細胞質側に短いペプチド部分を突き出しています。LAMP-2は多くの組織に広く発現しますが、LAMPファミリーに属して特殊な細胞に発現するLAMP-3, LAMP-4, LAMP-5にはβ-プリズムドメインが一つしかありません。  

研究グループでは、β-プリズムドメインが二つあることがLAMP-2の機能にどのような意味をもつかを調べました。LAMP-2の片方のドメインを除いたところ、シャペロン依存性オートファジーの機能が顕著に低下しました。またリソソームの成熟過程も影響を受けました。次に拡張遺伝暗号※4を用いた非天然アミノ酸の導入技術を利用して、細胞内で膜上に発現している状態のLAMP-2分子同士の相互作用を調べました)。β-プリズムドメインの三角柱の上面と底面をそれぞれA面、B面とすると、LAMP-2分子はA面同士を向かい合わせていました。一方、片方のドメインを除いたLAMP-2はA面でもB面でも相互作用できました。この結果から、LAMP-2が二つのドメインをもつことによりA面同士を向かい合わせていることがわかりました。  

LAMP-2の片方のドメインを除くとA面でもB面でも相互作用できるためにLAMP-2分子同士の相互作用は強まるのですが、その状態で機能は低下していました。そこで、β-プリズムドメインのA面同士を向かい合わせている構造はLAMP-2の機能に重要であると考えられました。

【研究成果の意義】

 本研究の意義はLAMP-2が一定の様式で複合体を形成し、それには二つのドメインの存在が必須であることを初めて明らかにした点にあります。LAMP-2には末端の配列の異なる3種類のスプライスバリアント※5 (LAMP-2A/2B/2C)があり、それらは細胞質側に突き出した短いペプチド部分の配列が異なります。それぞれのペプチド部分に細胞質に存在する分子が結合することにより、異なる作用が引き起こされます。リソソームの内側でのLAMP-2の複合体形成が縁の下の力持ちとして細胞質側ペプチドを一定の配置(距離間隔)でリソソーム膜上に提示することが、ペプチド部分の認識に重要である可能性が考えられます。本研究の知見は、シャペロン依存性オートファジーなどLAMP-2が関与する現象の分子機構の解明に貢献し、ダノン病などの疾患や老化にともなうタンパク質分解制御の破綻を抑制する治療の開発に寄与することが期待されます。LAMP-2はリソソームの食作用にも重要な因子なので、口腔内における細菌排除の効率を高める新たな予防的医療法の開発も期待されます。  

また本研究では非天然アミノ酸の導入を用いたタンパク質の構造解析において、従来の光架橋部位の導入に加えて、側鎖が大きな非天然アミノ酸を導入して部位特異的に立体障害の影響を調べました。その結果として、「接触はしていないが、ごく近傍に位置する状態」を示すことに成功しました。これは20種類のアミノ酸の中だけでの改変では達成できない、非天然アミノ酸導入の新たな有用性を示すものです。

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【用語解説】

※1糖衣

電子顕微鏡で観察するとリソソームの膜と内容物との隙間に8 nm程度の電子密度の低い部分が認められ、その部分は多糖や糖タンパク質に対する染色法で染色される。そこで、この部分はリソソーム内部の加水分解酵素からリソソーム膜を保護するための糖質でできた層、Glycocalyx(糖衣)と呼ばれている。

※2シャペロン依存性オートファジー

細胞質のタンパク質がHsc70などのシャペロンに認識されるとリソソームに運ばれ、リソソーム膜を通過して内部に移行して分解される反応。運ばれたタンパク質・シャペロンは、リソソーム膜上に突出しているLAMP-2の末端に結合する。運ばれたタンパク質がリソソーム膜を通過する分子機構はまだ解明されていない。

※3β-プリズムフォールド

β-シートで形成される平面に中央で曲がったβ-シートが屋根のようにかぶさってできるタンパク質の構造。レクチンなどに見出されていた。

※4拡張遺伝暗号

通常は、アミノ酸に翻訳されない終止コドンを非天然のアミノ酸に対応させる技術。終止コドンを認識するサプレッサーtRNAと、そのtRNAに非天然アミノ酸を付加できるように触媒部位を改変したアミノアシルtRNA合成酵素から成る人工的タンパク質合成系を用いる。本研究では、LAMP-2の遺伝子の特定の部位のコドンをTAG (amber終止コドン)に変えたものと人工的タンパク質合成系を動物細胞に共発現させ、培地に非天然アミノ酸 (光反応性架橋を調べる場合にはpBpa: p-benzoyl- L-phenylalanine, 立体障害を起こす場合にはAlocLys: Nε-allyloxycarbonyl-L-lysine)を加えて培養した。

※5スプライスバリアント

転写過程でエクソンが除去されて(スプライシング)、一つの遺伝子から複数の転写産物が生じる場合に、翻訳により複数のタンパク質が合成される。そのように生じた複数のタンパク質をスプライスバリアントとよぶ。


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