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コロラド川の計画洪水が明らかにした温室効果ガスの放出

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Goldschmidt Conference

2014年に実施されたコロラド川三角州への実験的な計画洪水によって、大規模に干上がった水路が短期的な洪水にどのように反応するか、思わぬ興味深い展開が明らかになった。それは、溜まっていた温室効果ガスの放出である。この研究は、横浜で開催されるゴールドシュミット会議で報告される。

発表者であるトーマス・ビアンキ博士は、「我々は、温室効果ガス(メタン及び二酸化炭素)が河床堆積物から氾濫水に急激に放出されることを観測した。これらの温室効果ガスは、乾燥した河床におそらく数十年間に渡って蓄積された炭素に由来するものである。」と伝えた。

放射性炭素測定の結果により、氾濫水に放出された炭素は、河床に閉じ込められていたものが、再懸濁・溶出したものであることが示された。河川水中の溶存無機炭素(二酸化炭素、炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオンの総称)の年齢は800年以上のものも頻繁に見られるなど古いことが分かり、これは、閉じ込められていた二酸化炭素(溶存無機炭素)が洪水時に溶出し、急速に河川水中に放出されたことを示唆する。

トーマス・ビアンキ博士は、「この結果は、洪水と干ばつが水界生態系に与える、予測不可能な影響を正しく理解するために、さらなる研究が必要であることを示しており、特に地球規模の気候変動に直面した状況では尚更である。」と続けた。

グランドキャニオンを下刻するコロラド川は、フーバーダムやその他多くのダムを含んでおり、多分これは、北アメリカの最も特徴的な水系である。アメリカ合衆国とメキシコの両国におけるコロラド川からの河川水利用の増加は、コロラド川がカリフォルニア湾に流れこむ場所である、メキシコのコロラド三角州が干上がってしまったことに関係する。コロラドの三角州湿地は、フーバーダム(注:1936年完成)の建設以前に比べて、現在は20分の1の面積にまで縮小している。

2014年に実施された8週間にわたる実験によって、メキシコとアメリカ合衆国の国境に位置するモレロスダムから放出された1億3000万立方メートルの水は、遥か下流のコロラド三角州にわたって河川水位の上昇を引き起こした。2014年3月27-29日を中心とする放流は、過去数十年にわたり水不足の状態にあったコロラド三角州を潤すことを目指したものであった。研究者は将来の河川放水が下流の三角州地域の農業生産と自然植生、野生動物にどのように影響するかを評価するため、この放水実験の前後の状態を詳しく比較することができた。

この極めて限定的な計画洪水の観測結果は、河床に蓄積された炭素が氾濫水に急速に放出されることを示し、直接的に計測されてはいないが、これらの温室効果ガスは最終的に大気に放出されたものと考えられる。このことは、コロラド川に限らず、河川の流れに人為的な変化が生じている世界中の至る所で、長期的な研究の取り組みが必要なことを示している。

フロリダ大学のビアンキ博士のコメントは以下の通りである。「我々の研究結果は、乾燥地域及び準乾燥地域においては、洪水と干ばつを伴う変動が激しい気候条件下では、安定的な気候条件下よりも、河床に蓄積された炭素(例えば、温室効果ガス)が放出される可能性が高いことを示している。人類は水資源を増やし続ける必要があるので、かつての自然の三角州の乾燥化や再湿潤化は、炭素の蓄積やその素過程を根本的に変化させるかもしれない。

まだまだ解明が必要なことがたくさんある。例えば、湿潤乾燥期間の長さがどのように温室効果ガスの放出に影響するか、あるいは、最低限の河川水位を維持することが、温室効果ガスの放出を抑制する効果があるかなど、多くの問題について、私たちは答えを知らない。

我々が考慮しなければならない他の要因として、回復した水供給が下流の三角州の野生植物の成長を促進するかどうかという問題がある。湿地性の植物群落は大気中の二酸化炭素を吸収することで、温室効果ガスを土壌中に長期間にわたって固定する能力を保持している。それ以外にも副次的な恩恵が期待でき、例えば、浸食性の三角州の回復は海岸の安定性をもたらし、沿岸漁業への貢献が期待される。全球炭素収支における内陸水路の役割を評価し、変化していく気候の中で潜在的なフィードバック経路を見出し、将来の河川水流の復活を計画するために、このような不確実性の解明は重要である。

実際の問題として、河川三角州を復活させることは、時々蛇口を開けばいいというような単純な問題ではない。アメリカ合衆国とメキシコの双方が、特に降水量の少ない地域において、複雑で繊細な生態系の維持について長期にわたって責任を持って関与することが必要である。しかしながら、復活を目指すことは明らかに正しい選択である。」

バージニア海洋科学研究所のエリザベス・A・カヌエル教授のコメント。「この発表では、コロラド川の短期的な計画洪水が、新たに湿った河床堆積物から温室効果ガス(メタン及び二酸化炭素)の放出を引き起こすという予期しない発見が報告されている。一般的には、有機物の好気的・嫌気的(有酸素性・無酸素性)分解による温室効果ガス(GHG)の発生は、湿った土壌よりも乾燥した土壌中で活発と考えられてきた。しかしながら、この予察的な研究が示すように、今回の計画洪水などのような再湿潤化期及び洪水第一波の時期において、堆積物中に蓄積した有機物と栄養塩が『活性化された』とき、乾燥した河川が生物地球化学的な移動と変換の『ホットスポット』となりうることを示している。」

「結果として、この研究は、洪水イベントに対する生物地球化学についての新たな知見をもたらすものである。そしてまた、計画洪水が予期せず温室効果ガスの放出をもたらすという結果が示されていることから、この研究には管理上の意義もある。計画洪水によるこの予期しなかった影響は、環境修復やその他の生態系サービスの観点から、計画洪水の利益と比較して評価しなければならない。」(注:より詳細なコメントは広報担当から入手可能。)

この研究は、全米科学財団水文科学プログラムからの研究費を一部使用して実施した。

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* 参考:http://www.nature.com/news/water-returns-to-arid-colorado-river-delta-1.14897

問い合わせ先 :

Professor Thomas S. Bianchi, Ph.D: tbianchi@ufl.edu
Professor Elizabeth Canuel ecanuel@vims.edu
Goldschmidt Press Officer(日本語対応可): press@goldschmidt.info



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