研究者は、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、一般的な局所麻酔薬、中枢神経系抑制薬などの様々な薬剤を短期間で合成できる、家庭用冷蔵庫ほどの大きさのシステムを開発した。現在、医薬品の製造には複数の化合物や異なる施設での合成過程が必要とされることが多く、そのせいで時間がかかり、非効率でわずらわしい生産工程になっている。このようなぶつ切りの工程作業のために医薬品はロットでひとまとめに製造されることが多く、それが薬剤不足の主な寄与因子となっている。Andrea Adamoらが開発した凝縮システム(condense system)は、数時間から数日間にわたる薬剤の製造工程を連続的に(つまり最初から最後まで)実施し、米国薬局方の基準に合致した質の薬剤を生産することができる。この合成装置の進歩には、疾患の流行時や自然災害後の薬剤供給に役立つなど、数多くの重大な意義がある。このシステムは、合成される薬剤によって付け足したり取り外したりできる再構成可能なユニットで成り立っている。原理証明(proof-of principle:POP)として、研究者らは次の薬剤の生産を実践してみせた ―― ジフェンヒドラミン塩酸塩(一般商品名ベナドリル�。アレルギーの治療に用いられることが多い)リドカイン塩酸塩(一般的な局所麻酔薬であり抗不整脈薬でもある)、ジアゼパム(一般に、バリウム�として知られている)およびフルオキセチン塩酸塩(たとえばプロザックなど、広く用いられている抗うつ薬)。この合成装置はそれらをそれぞれ、1日あたり4,500、810、3,000、1,100回投与分生産することができた。もっともシンプルな薬剤からもっとも複雑な薬剤への生産の変更にかかる時間は2時間であった。現在、このシステムが生産できる剤型は液体のみであるが、著者らは三次元プリントなど新たなアプローチによって錠剤型の医薬品の現場での生産が促進されうるとしている。PerspectiveではRainer Martinが、プロセスフローを用いてこのシステムが遂げた科学的進歩に光をあて、この開発についてさらに詳しく考察している。
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