News Release

リンパ管形成に必須の新たな細胞外因子を発見

起点はポリドム 。メカニズムの研究と病気の解明 へ

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

図1

image: polydomを欠損したマウスでは皮下や胸腔に重篤な浮腫を発症する(右図)。左図は野生型マウス。(*は浮腫の部位) view more 

Credit: 大阪大学

  • 細胞外マトリックス蛋白質のひとつであるポリドム(polydom)が、胎仔期のリンパ管の形成、特にその成熟過程に必須であることを新たに発見した

  • これまではリンパ管形成へ関与する重要な因子が明らかになっておらず、リンパ管形成メカニズムの全容が理解できていなかった

  • 今回の成果によってリンパ管形成メカニズムの理解が深まれば、リンパ管に関連する病気の解明や治療にも役立つと考えられる

概要

大阪大学蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授のグループは、国立循環器病研究センター研究所の望月直樹副所長のグループと共同して、胎仔期のマウスとゼブラフィッシュでのリンパ管の形成に、細胞外マトリックス蛋白質[1]のひとつ、ポリドム(polydom)が必須であることを解明しました。

リンパ管は、組織中の余分な水分/蛋白質/脂肪の回収や、免疫細胞の循環を担う重要な脈管組織です。しかし、これまで、リンパ管形成メカニズムの全容は明らかとなっていませんでした。

今回、関口教授らの研究グループは、研究を重ねる中で、ポリドムという細胞外マトリックス蛋白質に着目。胎仔期のリンパ管の形成に必須の因子であることを発見しました。この成果によりリンパ管形成メカニズムへの理解が深まれば、リンパ管に関連する病気の解明や治療にも役立つと考えられます。

本研究成果は、2017年2月9日(木)6時(日本時間)に米国科学誌「Circulation Research」(オンライン)に掲載されました。

研究の背景

リンパ管は血管と同様に全身に広がる脈間組織で、主に毛細血管から漏れ出た水分や、蛋白質、脂肪を含む組織液の回収を担っています。また、腸管での脂肪吸収や免疫細胞の通り道としても、重要な役割を果たします。先天性の遺伝子疾患や乳がん手術後などの二次的な影響でリンパ管に異常をきたすと、重度の浮腫(ふしゅ)を引き起こし、最終的には免疫機能に影響を及ぼします。こうした疾患の治療が期待されながらも、リンパ管研究の歴史は日が浅く、リンパ管形成メカニズムの全容は解明されていませんでした。

ヒトの身体は60兆個の細胞からなると言われていますが、細胞が単独で存在するわけではありません。細胞は周囲に「細胞外マトリックス」と呼ばれる、さまざまな蛋白質でできた構造物をまとって、組織や臓器を形成しています。細胞外マトリックスは、単に細胞を物理的に下支えしているだけでなく、時に形態形成で必須のシグナルを伝達します。リンパ管形成の際にはこれまでに、液性因子と呼ばれる水溶性の蛋白質が細胞の外から働くことが知られていましたが、細胞外マトリックスの蛋白質がリンパ管形成にどのような影響を及ぼすかは、ほとんど分かっていませんでした。

研究の内容

今回関口教授らの研究グループでは、遺伝子改変マウスとゼブラフィッシュを用いて、細胞外マトリックス蛋白質のひとつであるポリドムが胎児期のリンパ管の形成に必須であることを新たに発見しました。ポリドムを欠損したマウスでは組織液の回収ができず、皮下や胸腔(きょうくう)に重度の浮腫を発症し(図1)、その結果、生後直後に呼吸不全となり死亡します。このマウスの胎仔期のリンパ管を調べたところ、初期のリンパ管形成は正常でしたが、その後の成熟過程に異常をきたすことが分かりました(図2)。また、魚類のゼブラフィッシュを用いた場合もポリドムが欠損した個体ではリンパ管が形成されなかったことから、ポリドムは種を超えてリンパ管形成に関わる重要な因子であると証明できました。さらに、マウスではポリドムが既知のリンパ管形成因子Foxc2,Angiopoietin-2,Tie1/Tie2の調節にも関わることが明らかとなり、ポリドムを起点とするリンパ管形成の「新たな制御機構」が分かってきました。ポリドムという新たな役者の発見で、リンパ管形成メカニズムの理解が大きく広がりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、リンパ管の成熟過程における基礎的なメカニズムが、より詳細に解明されました。リンパ管の治療時には成熟型の機能的なリンパ管を再構築することが不可欠です。今後の研究でリンパ管形成の基礎的なメカニズムがさ らに解明されていけば、リンパ管に関連する病気の解明だけでなく、その治療にまでつながると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年2月9日(木)6時(日本時間)に米国科学誌「Circulation Research」(オンライン)に掲載されました。

なお、本研究は、科学研究費補助金・新学術領域研究「血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構」(H22~H26)および基盤研究(B)(H25~H28)の一環として行われました。

用語説明

※1 細胞外マトリックス蛋白質

細胞の外に存在し、その足場となる不溶性の蛋白質。コラーゲンや、iPS細胞の培養に用いられるラミニンなどが知られている。

筆頭著者のコメント

既に多くの研究がなされている生命科学ですが、ポリドムのように機能が全く調べられていない分子や、リンパ管のように研究途上の分野もいまだ残されています。そのような研究に取り組み、基礎の土台を固めていくことが、その上に積み上がるアイデアを生み、数年後の応用につながると信じ、ここまで本研究に取り組んできました。今後もこの研究を発展させていきたいと思います。

また、この研究は国内外のリンパ管研究者の協力や議論があって初めて成し遂げることができました。彼らのリンパ管形成に関する研究と、われわれが得意としていた細胞外マトリックスの生化学研究、それぞれが積み重ねてきた知識が組み合わさり、ここに結実したと考えています。

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