News Release

植物が酸化障害を防ぐメカニズムを解明

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

How Plants Prevent Oxidative Stress: Fig 1

image: This image shows reactive oxygen species production and regulation mechanism. view more 

Credit: Kobe University

神戸大学農学研究科の三宅親弘准教授を代表とする研究グループは、植物・作物がもつ、活性酸素の生成を抑え酸化障害を防いで安全に光合成するためのシステム、「P700酸化システム」を発見しました。

本研究グループはこれまでに、活性酸素の生成メカニズムを世界で初めて明らかにしてきました。この成果をうけ、今回、活性酸素による酸化障害を人工的に生じさせる「パルス法」を開発。植物がもつ活性酸素生成抑制システム「P700酸化システム」を発見し、このシステムの制御を実証しました。また本研究により、酸化障害の危機を検知する「ROSマーカー」の汎用性を明らかにしました。

この研究成果は11の科学誌に一連の報告が掲載されました。

研究の背景と経緯

多くの光合成生物の光エネルギー利用は太陽光の25~50%で飽和します。つまり、光合成に必要以上の光エネルギーにさらされることは日常的に生じており、このことは、光合成生物にとって非常に危険なことです。たとえば、光合成に必要以上の光エネルギーが一瞬でも生葉に照射されると、光合成を営んでいる葉緑体は容易く活性酸素による酸化障害をこうむり光合成がストップしてしまいます。そのため、世界中の多くの研究者が、光合成生物がどのようにして安全に太陽光の下で生きているのか、長い間その仕組みの解明に取り組んできました。

本研究の代表者は、瞬間的な光処理法(パルス法)を確立することで、植物酸化障害およびその防御のメカニズム解明に成功しました。

研究の内容

パルス法を用いて酸化障害のメカニズムを解析した結果、光エネルギーが化学エネルギーに変換される葉緑体チラコイド膜※1の光化学系Iで活性酸素(reactive oxygen species, ROS)が生成されていることが明らかになりました(図1)。ROSは、酸素(O2)が一電子還元されスーパーオキシドラジカル(O2-)、あるいはO2が光エネルギーにより励起されて一重項酸素(1O2)になったものでした。これらROSは、一度生成すると生体成分であるタンパク質、膜脂質などを酸化分解し、それらの機能をなくしてしまいます。

光化学系IでO2をROSへ変換する分子的実体は光化学系I反応中心クロロフィルP700でした。その後、私たちは、P700が酸化状態にあるとROS障害が抑制されることを発見しました。P700の酸化は、強光あるいは乾燥などの光合成が抑制される環境、つまり光エネルギーが余った状況下で観測されることが80年代後半から知られていましたが、その役割・意義については分かっていませんでした。本研究チームは、世界で初めてその意義づけに成功しました。

さらに、P700酸化が高等植物葉緑体の先祖であるシアノバクテリア(ラン藻)の生育に必須であることを見出し、また、藻類、コケ、シダ、裸子植物および被子植物まで共通して普遍的に機能していることを明らかにしました。これらの光合成生物でP700酸化が機能しなければROSによる障害が生じてしまうことも世界に先駆けて発見しました。

その後の研究で、P700酸化が、光合成が抑制される環境で積極的に誘導されること、またそこには様々な分子メカニズムがかかわっていることを見出し、「P700 oxidation system (P700酸化システム)」と世界で最初に命名しました(図2)。

「P700酸化システム」において、酸化型のP700 (P700+)が蓄積するとO2へ電子を与えO2-を生成、あるいはO2へ光エネルギーを与える三重項状態のP700を生成する光励起P700 (P700*)の存在割合が低下します。

これにより光合成電子伝達系でのROS生成が抑制されます。更に本研究チームは、「P700酸化システム」が機能しP700+が蓄積するために、2つの戦略を光合成生物が獲得してきたことを明らかにしました。

第1は、光励起P700 (P700*)の酸化によるP700+生成の促進で、このために陸上植物は光呼吸系を積極的に機能させ、またシアノバクテリアおよび藻類ではFlavodiironタンパク質(FLV)によるO2の水への還元反応が活躍しています。光呼吸とFLVはともに光化学系I反応中心クロロフィルP700から電子を奪う酸化反応を進行させます。

第2は、酸化型P700(P700+)へ電子を与えない制御メカニズムです。光合成電子伝達体であるプラストキノンが還元されると電子伝達体であるシトクロムb6/f複合体の活性が低下(RISE)し、P700+への電子の流れが抑制されます。さらに、光合成電子伝達反応の場であるチラコイド膜ルーメンでのATPaseによるプロトン濃度制御によりプロトン勾配(pH)形成を促し、同様にシトクロムb6/f複合体の活性低下が生じます。

本研究の代表者は、これら一連の「P700酸化システム」の制御を実証し、光合成生物における頑健性を明らかにしました。

※1 チラコイド膜・・・葉緑体がもつ小胞を構成する二重膜。膜内に種々のタンパク質が存在し、光合成の明反応を起こす。

今後の展開

今回の“「P700酸化システム」の発見、生理的役割、分子メカニズムおよび進化的多様性の解明”は、光合成生物が「P700酸化システム」を頑健な生理機能としてもっていること、フィールド環境で不可欠のものであることを明らかにしました。

光合成生物が普遍的にもつこのシステムは、光合成での二酸化炭素(CO2)固定効率が低下する状況、つまり光エネルギーが過剰となる状況(環境ストレス:強光、乾燥、貧栄養条件など)で機能し始めます。その結果、チラコイド膜光化学系I (PSI)反応中心クロロフィルP700が酸化されます。このとき生成する酸化型P700(P700+)は、容易く観測することができます。このようなP700+が生成する状況は、過剰な光エネルギーにより活性酸素ROSが生成される危険な状況であります。

本研究の代表者は、生葉におけるP700+の生成はROS生成の危険度が増大することを示すマーカーとして使えることに着目し、本プロジェクトでその実用化に取り組んでいます。そこでは、P700酸化システムで生成誘導されるP700+をROSマーカーとして提唱し、その検知機器の開発を行っております。植物・作物が生育するフィールドでのROSマーカーのモニタリングは、酸化障害の危険性の速やかな察知を可能にします。さらに、代表者が開発したパルス法によるROS生成処理は、植物・作物のROS耐性評価を可能にします。今後は、これらの可能性の検証とともにフィールドにおける実証が待たれます。

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