News Release

特別号:癌の転移

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

癌に関する今回の特別号では、主に転移に焦点を当て、癌細胞がいかに拡散するか、またこのような播種が起こるのを防ぐための最善の方法は何か、についての理解における最新の進歩を取り上げた2本のReview、2本のPerspective、1本のエディトリアル、そして1本の特集記事を紹介する。転移癌はいまだにほとんど治癒できず、癌関連死亡の主要原因となっているが、研究によって興味深い治療標的が次第に明らかにされつつある。この特別号では、腫瘍がいかにして標的薬物治療に対する耐性を発現するかについて新たな洞察を提供するレポートも紹介する。

最初に、Harold Varmusのエディトリアルは、癌研究のための資金を増額するための連邦政府による最近の取り組みは、進行癌の治療において重要なものとなろうと指摘している。これに加えて、予防ケアにさらなるリソースをつぎ込むべきであると示唆し、政府はメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が癌の分子プロファイリングに対して償還を行えるようにすることを提案している。これにより「分析のための広範なデータが利用可能になり、遺伝子プロファイルの解釈が加速化され、臨床情報の真の共有のための試験台が提供され、CMSによる保険対象の決定が将来的により迅速かつ理にかなったものになるであろう」とVarmusは述べている。

Jocelyn Kaiserによる特集記事では、腫瘍がエクソームという、蛋白質とRNAが中に詰まった小胞を排出することで、体内の遠隔部位を癌細胞に適した環境にして癌の拡散を容易にすることを示す、新たなエビデンスについて論じられている。最初は議論の的になり、今も完全に受け入れられているわけではないが、この理論は説得力を持ち続けている。

Erinn RankinとAmato GiacciaによるReviewでは、転移と低酸素(酸素欠乏)に関わる研究について要約されている。研究により癌細胞は、HIFという癌患者の高死亡率と関連付けられることの多い低酸素シグナル伝達経路を利用することが示唆されている。諸研究から、腫瘍はHIFシグナル伝達を利用して周囲の免疫細胞を操作し、自らにとって有利にすることが示されている。研究からはさらに、癌細胞はHIFを利用して転移の全段階として都合の良い環境を作り出し、これにより癌は特定の部位、特に骨へと拡散しやすくなることが示されている。HIFはまた、転移後の癌細胞の生存にも有利に働く。例えば、癌の転移部位として多い肝臓は酸素の少ない環境であるが、このため著者らは、早期転移では低酸素シグナル伝達経路を利用できる癌細胞が選択されると示唆している。最後に、最近の研究により、AXLという蛋白受容体が、HIF依存性の浸潤および転移の重要なメディエータであるとともに、転移癌の予防および治療において治療標的となり得ることが明らかにされている。

Samra TurajlicとCharles Swantonによる第2のReviewでは、転移という観点から腫瘍がいかにして進化するかを論じている。原発腫瘍と二次腫瘍(腫瘍進化)の間に見られる遺伝的な類似性と差異を研究することで、転移による拡散の経路、傾向およびタイミングに光を当てられる可能性がある。著者らは、様々な癌種にわたる腫瘍進化に関する多数の研究を取り上げ、原発腫瘍の複数のサブクローンが並行して進化するとともに、直線的にも進化することを見出した。データから、サブクローンは転移時に互いに競合的にも協調的にも作用し合い、時には最初の腫瘍が再播種されることもあると示唆される。

Kevin CheungとAndrew EwaldによるPerspectiveは、二次腫瘍は単一の細胞によって播種されるという従来の見解に対して、一群の癌細胞によって播種されるらしいことを示唆する最近の研究について論じている。さらに、腫瘍の辺縁部を分析した最近の研究では、癌細胞から伸びた触手が近傍の組織内に入り込み、特別な分子特性、特にサイトカイン14(K14)を発現することが分かった。K14を発現するこの浸潤状態にある細胞は、播種性の拡散の全ての段階で、すなわち集団的浸潤、局所播種、循環血中腫瘍細胞のクラスター、および微小転移で認められたが、原発腫瘍や確立された二次腫瘍では稀であった。著者らは、これらのクラスター細胞に特有の性質を標的とすることは、転移癌の治療法となる可能性があると示唆している。

同様に、Thomas T�tingとKarin de VisserのPerspectiveでは、好中球が転移において果たす役割について検討されている。好中球はヒトの血中に存在する免疫細胞で、ヒトを感染症から守り、創傷治癒を促進する役割を担っているが、興味深いことに、癌患者では好中球の集積がしばしば見られ、転移と関連している。諸研究により、好中球の集積は癌細胞が拡散する部位において拡散に先立つ時点にもて見られ、この集積が原発腫瘍から発せられるシグナルによって開始されることが分かった。著者らは、好中球の抑制にある程度の成功が示されたいくつかの戦略について論じ、この面倒な免疫細胞に干渉する治療を抗癌治療と併用することで、転移を阻止する有効な手段となる可能性があると指摘している。

癌細胞が薬物耐性を発現するメカニズムについて理解を深めるために、最後に取り上げるItay Tiroshらによる研究は、黒色腫細胞には、同一の腫瘍内であっても極めて多様な遺伝子発現が見られることを示し、これらの細胞の中で薬物耐性を発現するサブセットを同定している。腫瘍内には複数の細胞種が含まれていること(非均一性)は以前から知られており、これが薬物治療に対する耐性の発現に一役買っていると考えられる。さらなる洞察を得るため、研究者らは転移性黒色腫患者の19個の腫瘍から単離された、4,645個の悪性細胞、免疫細胞、間質細胞について単一細胞のRNAプロファイルを分析した。その結果、ある部位の悪性細胞で他の腫瘍部位よりも発現率の高い229の遺伝子が同定された。癌細胞の存在部位に加えて、抗癌治療薬に対するそれらの細胞の曝露レベルが、遺伝子発現に影響を及ぼしていた。AXLは抗癌治療薬への耐性に関連するマーカーであるが、研究者らは、治療前には、高レベルのAXLを発現する癌細胞がAXLの発現が比較的低い細胞と混在していることを見出した。ところが、抗癌治療後の腫瘍の生検では、AXLを発現する細胞が治療後には全体的に入れ替わっていたことが分かった。

###


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.