News Release

「らせん型分子接着剤」の発見

「左巻き」分子は、異なる2種類の「右巻き」分子の「接着剤」として働く

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Helical Molecular Glue

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Credit: Tsuji, H. et al. Configurational Molecular Glue: One Optically Active Polymer Attracts Two Oppositely Configured Optically Active Polymers. Sci. Rep. 7, 45170; doi: 10.1038/srep45170 (2017).

 辻秀人教授らの研究グループでは、トウモロコシあるいはジャガイモ由来のデンプンなど、再生可能資源からの生産が可能である「ポリ乳酸」を中心とする「生分解性高分子」に関する基礎および応用研究を行なっています。ポリ乳酸は、代表的な生分解性高分子であり、生体内で加水分解され、分解生成物の乳酸は人体に悪影響を及ぼすことなく代謝されます。このような特性を利用して、組織再生の足場材料など医療用途や環境用途で用いられています。  

不斉炭素をもつポリマーであるポリ乳酸には、鏡像関係にあるL体のポリ(L-乳酸)とD体のポリ(D-乳酸)が存在します(図1)。これらをブレンドするとL体どうし、あるいはD体どうしの相互作用よりも、L体とD体の相互作用が強いために、「ステレオコンプレックス」と呼ばれる「共晶」が形成されます。ステレオコンプレックスを形成すると、単独の場合と比較して、融点が上昇し、力学的特性、耐熱性、および耐加水分解性が上昇します。そのため、従来は「生分解性材料」ですが、「ステレオコンプレックス」化により、幅広い用途への展開が可能となります。そのため、近年、ポリ乳酸の「ステレオコンプレックス」化の研究は盛んに行なわれています。

 この例のように、ポリ乳酸のL体とD体は、「左巻き」分子と「右巻き」分子の関係にありますので、「左巻き」分子と「右巻き」分子は強く引き合うことを示しています。ポリ乳酸の「メチル基」が「エチル基」に置換された置換型ポリ乳酸の一種であるポリ(2-ヒドロキシ酪酸)(図1)のL体とD体をブレンドすることにより「ステレオコンプレックス」が形成されることも発見していますが、ポリ乳酸の「メチル基」が「イソプロピル基」に置換された置換型ポリ乳酸のポリ(2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸) (図1)でも同様の現象が報告されています。さらに同様の現象は分子の側鎖の種類が異なっていても起こり(例えば、ポリ乳酸のL体とポリ(2-ヒドロキシ酪酸)のD体)、これらの結果も「左巻き」分子と「右巻き」分子が強く引き合うことを示しています。

 今回の発見は、「左巻き」分子が、従来は組み合うことのない、異なる化学構造を有する2種類の「右巻き」分子をくっつける「接着剤」として働くというものです(図2)。このことは、「右巻き」の分子も、従来は組み合うことのない、異なる化学構造を有する2種類の「左巻き」の分子をくっつける「接着剤」として働くことを意味しています。今回発見した組合わせは、D体のポリ乳酸、L体のポリ(2-ヒドロキシ酪酸)、D体のポリ(2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸)です。「左巻き」のらせん構造を有するL体のポリ(2-ヒドロキシ酪酸)が、「右巻き」のらせん構造を有するD体のポリ乳酸およびD体のポリ(2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸)をくっつける「らせん型分子接着剤」として働き、通常は共に結晶を作らないD体のポリ乳酸およびD体のポリ(2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸)をくっつけ一緒に結晶を作ることを世界で初めて発見しました。本手法を用いることにより、従来は組み合わせることが不可能であった、同一方向のらせん構造を有する種々の異なる2種類の高分子を組合せることができるようになり、様々な特性を有する新しい高分子材料の開発を可能にすることが期待されます。

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ファンディングエージェンシー:

JSPS科研費 No. 16K05912
文部科学省科研費 No. 24108005

論文情報:

Hideto Tsuji, Soma Noda, Takayuki Kimura, Tadashi Sobue, and Yuki Arakawa, Configurational Molecular Glue: One Optically Active Polymer Attracts Two Oppositely Configured Optically Active Polymers, Scientific Reports, vol. 7, Article number 45170 (2017).

本論文はOpen Accessであるため、どなたでも下記から閲覧することができます。http://www.nature.com/articles/srep45170

注意:本文書の図は論文掲載の図の日本語版であるため、使用される場合は引用先(下記)をご明示下さい。

Tsuji, H. et al. Configurational Molecular Glue: One Optically Active Polymer Attracts
Two Oppositely Configured Optically Active Polymers. Sci. Rep. 7, 45170; doi: 10.1038/srep45170 (2017).


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