東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 眼科学分野の鴨居功樹(かもい こうじゅ)講師、大野京子教授、堀口乃恵非常勤医師、輕部央子大学院生の研究グループは、東京大学医科学研究所(東條有伸教授・病院長)、東京大学大学院新領域創成科学研究科(内丸薫教授)、国立感染研究所(浜口功部長)、聖マリアンナ医科大学(脳神経内科:山野嘉久教授、医療情報実用化マネジメント学:渡邉俊樹特任教授)との共同研究で、HTLV-1は水平感染によって、HTLV-1関連疾患であるHTLV-1ぶどう膜炎を引き起こし、またその炎症は強く、再発や遷延する可能性があることをつきとめ、水平感染の重要性を明らかにしました。その研究成果は、国際科学誌THE LANCET Infectious Diseases(ザ・ ランセット・ インフェクシャスディジーズ)に、2021年3月24日、オンライン版で発表されました。
【研究の背景】
世界保健機関(WHO)をはじめ、世界中から注目を集めているウイルスであるHTLV-1※1は、世界で3000万人以上、日本に100万人前後の感染者がいると推定されるウイルスで、先進国の中で日本に最も多くの感染者が存在します。このウイルスは成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊椎症、HTLV-1ぶどう膜炎など、ヒトに病気を起こすため、先進国の中で最も感染者が多い日本は、このウイルスに対して率先して取り組む責務があります。
長らく、成人T細胞白血病などのHTLV-1関連疾患は、垂直感染(母子感染)※2によって起こると考えられていました。しかし、近年の調査によって、東京など都市部における感染者の増加が指摘され、その一因は、水平感染※3によるものと推定されています。そこで、水平感染の意義を明らかにするために、水平感染によって生じたHTLV-1関連疾患の情報が求められていました。
【研究成果の概要】
HTLV-1関連疾患であるHTLV-1ぶどう膜炎は、これまで水平感染によって起こるという報告はなく、他の関連疾患と同様に、主に垂直感染(母子感染)によって発症する疾患と考えられていました。本研究では、東京医科歯科大学、東京大学医科学研究所において多数例のHTLV-1関連眼疾患を診療する中で、母親のHTLV-1感染が否定され、水平感染と確定したHTLV-1ぶどう膜炎を発見し、長期に渡るフォローアップを行なったところ、眼内炎症が強く生じ 、また炎症の再発・遷延が起こる可能性があることをつきとめました。
【研究成果の意義】
本報告により、これまで垂直感染によって起こると推定されていたHTLV-1ぶどう膜炎は、水平感染によって生じることを示したことから、水平感染はHTLV-1がヒトに病気を引き起こす重要な感染経路であることを明らかにしました。また、水平感染によるHTLV-1ぶどう膜炎は、非常に強い炎症・再発・遷延が起こる可能性があり、視力障害と、それに続く生活の質の低下に繋がります。東京など都市部の感染者増加の一因が水平感染とされていることもあり、水平感染で病気を引き起こすHTLV-1感染症に関して、積極的な周知・啓発が必要と考えられます。
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【用語解説】
※1 HTLV-1・・・・・・・・Human T-cell Lymphotropic (Leukemia) Virus type-1の略。ヒトに感染するレトロウイルスで、日本に100万人前後の感染者が存在し、血液、神経、眼疾患などを引き起こす。日本では九州地方に多いとされてきたが、現在東京をはじめとした都市部に感染者の増加がみられる。発見以来、日本が診療・研究において世界をリードしている。
※2 垂直感染・・・・・・・病原体が母親から子供へ直接感染する経路。経母乳感染、産道感染など。
※3 水平感染・・・・・・・病原体が垂直感染以外で感染する経路。パートナー間感染など。
Journal
The Lancet Infectious Diseases