グレート・バリア・リーフ(GBR)のサンゴは熱耐性のメカニズムを発達させて海面温度の急上昇に適応してきたが、近い将来、わずか0.5�Cの温度上昇でこの防御機能が失われる可能性があることが新しい研究によって示された。この研究結果は、今後数十年間でサンゴの白化現象の発生が激増する可能性を示している。サンゴが極めて健康でしっかり成長するために、サンゴの体の中に生息する渦鞭毛藻類と呼ばれる藻類との共生関係が起こっている。サンゴの白化現象とはこの共生関係の喪失のことで、熱ストレスによって渦鞭毛藻類が駆逐され、サンゴが白化し、成長速度がかなり低下する現象である。白化現象の温度閾値についてより詳しく知るために、Tracy Ainsworthらは27年間にわたって衛星を利用して記録したGBRの海面温度を分析した。その結果、白化現象を発生させうる熱ストレス事象が372回も発生していたことを突き止め、各地域の最高月平均温度(MMM)を基準値、白化現象の温度閾値をMMMプラス2�Cと定めた。Ainsworthらによると、海面温度が温度閾値の直前まで上昇した後に再び低下した場合(保護のシナリオ)、温度上昇が続いて温度閾値を超えることに対するサンゴの熱耐性が強化し、その結果、白化現象やサンゴの細胞死は減少していたという。それとは対照的に、温度閾値を超えた時に過去にストレスや回復期の経験がなかったサンゴは白化する傾向が強かった。保護のシナリオ下でのサンゴの遺伝子発現プロフィールは局部的な細胞死の低下に関連しており、原因となっている熱耐性のメカニズムを示唆していた。そこでAinsworthらは、これまでの気温を基に今後の気温に対するサンゴの反応についてシミュレーションを行った。その結果、これまでに保護シナリオを経験したサンゴの大半が現在より海面温度が約0.5�C上昇すると一回もしくは複数回の白化現象を体験し始めると予想している。これまでの温暖化の速度に基づくと、この海面温度の上昇は40年以内に発生すると予想される。現在はGBRの75%が保護のシナリオに該当しているが、現在の温暖化のペースでは2100年までに起こると考えられる2�Cの海面温度の上昇によって、保護シナリオでのサンゴの白化現象の割合は約3分の2減少して約22%となり、今後の熱ストレス事象がサンゴにとってはるかに致死的なものになることが予想される。
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