細菌の硫化水素産生を標的とすると、薬剤耐性病原体に対する抗菌薬の致命的な効果を促進できることが報告された。この知見は、抗菌薬耐性の出現を緩和することもできる有効性の高い抗菌薬を開発するための有望な戦略を示している。広く使用されている臨床抗菌薬に対する抗菌薬耐性(AMR)は、世界の公衆衛生に対する最も緊急性の高い脅威の一つであり、抗菌薬耐性細菌による世界の年間の死亡数は、2050年までにほぼ1000万人になると推定されている。しかし、AMRの存在率は着実に増加しているが、臨床用途で有効な伝統的な抗菌薬の数は減少しており、抗菌薬耐性細菌感染と闘うための新しい戦略を見つける必要性が示されている。1つの切実なしかしあまり研究されていない方法は、病原体を抗菌薬から保護する一般的な防御システムの妨害を利用するものである。今回、Konstantin Shatalinらが、硫化水素(H2S)媒介性の防御システムを標的としたこのような方法の1つを明らかにした。このシステムは事実上全ての細菌に存在し、酸化ストレスの毒性作用から細菌を保護している。Shatalinらは、シスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)が、2つの主なヒト病原体(黄色ブドウ球菌と緑膿菌)のH2S産生に関わる主要な酵素であることを明らかにした。そして、構造に基づくバーチャルスクリーニング法を用いて、約320百万個の市販の低分子を評価し、 H2S産生の顕著な阻害作用を有する化合物を3個特定した。これらの阻害薬はin vitroおよび感染のマウスモデルで殺菌性抗菌薬を強化した。さらにShatalinらは、これらが細菌の耐性を抑制し、バイオフィルム形成を阻害し、抗菌薬投与下で生き延びる細菌の数を顕著に低下させることも明らかにした。Shatalinらの知見は、「H2S産生を治療標的として抗菌薬活性を強化することへ、われわれを一歩近づけるものである」と関連したPerspectiveでThien-Fah Mahは述べている。「H2S産生酵素はほとんどの細菌に存在するため、細菌のH2S産生の阻害は、真のゲームチェンジャーになる可能性がある。」
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