News Release

コレステロールを運び動脈硬化を防ぐHDL

臨床で実用可能な機能測定法を世界で初めて開発

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

Cholesterol Efflux

image: Cholesterol efflux capacity and uptake capacity are shown. view more 

Credit: Kobe University

シスメックス中央研究所の原田周(はらだあまね)主任研究員と神戸大学医学研究科立証検査医学分野の杜隆嗣(とうりゅうじ)特命准教授らは、同医学研究科循環器内科学分野の平田健一教授らの研究グループと共同で、コレステロールを運ぶ高比重リポ蛋白(HDL)の機能を簡便に評価できる新たな測定系を開発しました。

また、今回の開発により短行程で測定が可能となった「HDLがコレステロールを取り込む能力」を、悪玉や善玉コレステロールとは別の新たなHDL機能指標として、『コレステロール“取り込み”能』と命名。神戸大学医学部附属病院での検証において、心血管病の予防・管理への高い有用性を明らかにしました。日常臨床で応用可能なHDL機能の測定系開発は、これが世界で初めてのことです。

この研究結果は、5月31日(現地時間)に米国臨床化学会議の機関紙「The Journal of Applied Laboratory Medicine: An AACC Publication」にオンライン掲載されました。

高比重リポ蛋白(HDL)

・ 血管などに溜まったコレステロールを肝臓まで回収し、動脈硬化の発症・進展を抑える作用を持つ。

・ 肥満や糖尿病、タバコなどによりその機能が低下すると考えられている。

研究の背景

子高比重リポ蛋白(HDL)は血管などに溜まったコレステロールを肝臓へと回収し、動脈硬化を起こさないように作用します。健康診断などで測定されるHDLコレステロールが「善玉コレステロール」と呼ばれるのはそのためですが、あくまでHDLが積んでいるコレステロールの量を測定しているだけであり、HDLがコレステロールを回収・運搬する能力自体を見ているわけではありません。近年、肥満や糖尿病、喫煙などによりHDLの作用が減弱すると考えられており、HDLが細胞に過剰に蓄積したコレステロールを引き抜く能力(コレステロール“引き抜き”能)を評価するほうが、HDL中のコレステロール量を測定するよりも、心血管病の予防・管理をするうえで有用であるとの報告が世界中より相次いでいます。

しかしながらHDLのコレステロール“引き抜き”能を測定するためには、放射性同位体で標識したコレステロールをあらかじめ取り込ませた培養細胞が必要であり、また手技が煩雑、かつ全行程に数日を要するため、日常臨床で測定することは非現実的でした。

そこで放射性同位体や培養細胞などを要さず、簡便かつ短時間で測定が可能なHDL機能評価系の確立に取り組みました。

研究の内容

従来の報告で用いられているコレステロール“引き抜き”能は、あらかじめ放射性同位体で標識したコレステロールをマクロファージなどの培養細胞に取り込ませた後、被検者より採取したHDLを添加し、培養液中に移行したコレステロールをシンチレーションカウンターで測定します (図1)。一方、今回、新たに開発した測定系では、① 放射性同位体の代わりに蛍光色素で標識したコレステロールと、被検者より採取した血清に加え (非放射性・無細胞)、② HDLに含まれるアポ蛋白A-Iの抗体を用いて血清中のHDLを補足し (HDL特異的)、③ 蛍光強度を測定してHDLに取り込まれたコレステロール量を評価します (図1)。本測定系にて得られた指標を、細胞を用いる従来のコレステロール“引き抜き”能に対し、コレステロール“取り込み”能と命名しました。

コレステロール“取り込み”能は短行程で測定が可能であり (6時間以内)、非常に高い再現性を示しました。また、従来のコレステロール“引き抜き”能と良い相関を示しました (図2)。さらに、酸化処理を施したHDLではコレステロール“取り込み”能は低下を示し、本測定系により実際に機能が低下したHDLを検出できることを確認しました (図2)。続いて本指標が従来のコレステロール“引き抜き”能と同じように心血管病の予防・管理に有用であるか検証し、神戸大学医学部附属病院 循環器内科において心血管病の再発を認めた患者ではコレステロール“取り込み”能が低下していることを明らかにしました (図3)。さらに本指標は悪玉 (LDL) や善玉 (HDL) コレステロールからは独立した負の危険因子であることが分かりました (図3)。

今後の展開

これまでにHDLのコレステロール“引き抜き”能が心血管病の新たな管理指標として有望であることを示唆する報告が数多くなされていますが、限られた施設でしか測定できず、また測定方法も統一されていないため、実地臨床(リアルワールド)でのエビデンスが不足していました。新たなHDL機能指標であるコレステロール“取り込み”能は簡便かつ短行程で測定でき、かつ高い再現性を有しているという利点を活かし、現在、さらに大規模な母集団を用いてHDL機能の低下が心血管病の予防・管理にどのようなインパクトを及ぼしているのか検証中です。また、今回の研究成果は、確立した評価法がないために停滞しているHDL機能改善を目的とした創薬にも強力な研究基盤技術を提供しうると期待しています。

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