News Release

線虫を使った健康寿命のミニ集団解析

健康寿命を延伸する物質や遺伝子の探索を可能に

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Principles of the <i>C. elegans</i> Healthspan Auto-monitoring System (C-HAS)

image: C-HAS can distinguish between nematodes that are alive, dead, or in an inactive state of survival by using superimposed periodic (before & after) images. view more 

Credit: Associate Professor Tsuyoshi Shuto

熊本大学の研究グループは、線虫を用いて健康寿命を評価する自動測定システムの開発に成功しました。本システムでは、特定の線虫の集団を寿命の質的相違に基づき、平均的に生きる集団、健康長寿の集団、健康で早死にする集団、不健康期間が長い集団に分類する、ミニ集団解析が可能となります。線虫とヒトの寿命を決定するメカニズムは類似点が多いため、本システムによりヒトの健康寿命を延伸する薬や食品を簡便に見つけることが可能となり、創薬研究・健康食品への応用が期待されます。

健康寿命とは、WHOが2000年に提唱した概念で、平均寿命(0歳時における平均余命)から日常的・継続的な医療・介護に依存して生きる期間を除いた期間のことを指し、人々の健康状態を反映する重要な指標です。分子や薬学などの科学の視点から"健康寿命"を捉えることが課題解決の糸口となると考えられますが、健康寿命を実験的に紐解く場合、実験動物や細胞の何をもって"健康寿命"というのか、明確な解答はありません。さらに、健康寿命に影響を与える因子を客観的、かつ高速に解析する技術は未だ確立されていません。

線虫は、極めて単純な動物であるにも関わらず、神経、骨格筋、消化管といった分化された臓器をもち、多くの哺乳類動物関連遺伝子が保存されています。この観点から、線虫は遺伝学・分子生物学の有用なツールとして、最先端研究で活用されています。しかしながら、線虫の寿命解析は、多くの有用情報をもたらす一方で、1) 線虫を室温下で観察する際の各種刺激による侵襲性が懸念されること、2) 毎日の測定に実験時間を多く要すること、3) 実験者の手技により異なる結果が得られやすく、客観性に乏しいこと、4) 一度に処理できる数が少なく、多検体を同時測定するのには不向きであること、などの問題点があり、これまでの線虫を用いた寿命研究には、多くの限界がありました。

首藤准教授らは、線虫を用いる寿命研究の優位性を維持しつつ、上記の問題点を解決することにより、線虫を用いた新たな"健康寿命"評価システムを構築することができるのではないかと考えました。まず、培養細胞の生細胞イメージングシステムに着目し、線虫生存の自動測定のための最適条件(線虫の匹数、培養温度、培地の厚さ、食餌条件、撮像間隔、生存判定法)を独自に精査し、線虫の生存を非侵襲的に、かつ自動で多数検体(現段階で36検体まで)測定することができる線虫全自動寿命測定システム(C-LAS: C. elegans Lifespan Auto-monitoring System)を開発しました。C-LASは、線虫の定期的な撮像画像の重ね合わせにより、撮影前後で重ならない(動く)線虫を「生線虫」、撮影前後で重なる(動かない)線虫を「死線虫」として見分ける技術に基づく、線虫の自動寿命測定システムです。

次に、C-LASを基盤として線虫の行動状態を観察することにより、線虫には「積極的行動状態、無活動生存状態、死亡状態」が存在することを見出しました。この時の積極的行動期間を線虫の「健康寿命」と定義し、上記分類を画像上で判別可能とする新システム線虫全自動健康寿命測定システムC-HAS(C-HAS: C. elegans Health lifespan Auto-monitoring System)を確立しました。C-HASは、C-LASと同様に、線虫の定期的な撮像画像の重ね合わせにより、「生線虫」と「死線虫」を見分けることが可能であると同時に、撮影前後で部分的に重なる無活動生存状態にある線虫(生きているが、活発に動くことのできない=不健康線虫)も見分けることが可能な自動健康寿命測定システムです。C-HASを用いると、個々の線虫の健康寿命、不健康期間、死ぬまでの寿命を算出することが可能で、これらのパラメーターを用いたミニ集団解析が可能となります。ミニ集団解析では、遺伝的に背景が同じである線虫を、平均的に生きる集団、健康長寿の集団、不健康で早死にする集団、不健康期間が長い集団の4つに分け、各集団に属する線虫が何匹ずついるかというような情報を得ることが可能です。

さらに、遺伝的背景の同じ一般的な線虫について、C-HASと統計解析を組み合わせた線虫健康寿命の「ミニ集団解析」を行ったところ、平均的に生きる集団が約28%、健康長寿の集団が約30%、健康で早死にする集団が約35%、不健康期間が長い集団が約7%存在することを明らかにしました。このとき、健康寿命と関連の深いAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を遺伝的に、または薬剤メトホルミンにより活性化することで、健康長寿の集団が劇的に増加し、不健康期間が長い集団がいなくなることもわかりました。メトホルミンは、ヒトにおける健康寿命を延伸することが知られており、現在、健康長寿を確かめるための臨床試験が行われている薬の一つです。本研究は、そのような事実を後押しする結果を示しています。

研究を主導した首藤准教授は次のようにコメントしています。

「私たちはC-HASを用いることで、これまで知られていない健康寿命に関わる遺伝子を新たに同定することに成功しました。今回開発したC-HASは、「線虫を使って健康寿命を測る」という意外性のある研究視点を実現したものであり、ヒトやマウス等の実験動物では達成できなかった作業時間と精度で、ヒトの健康寿命に関わる遺伝子の探索や、健康寿命を延伸する薬や食品を、簡便に見つけることを可能とする技術です。今後、創薬研究・健康食品への応用が期待されます。なお、現在、C-HASに人工知能(AI)を用いた深層学習を組み込み、自動解析を推進するC-HAS-AIの開発に向けた研究も実施中です。」

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本研究成果は、「Journal of Pharmacological Sciences」に令和2年12月29日 (日本時間) に掲載されました。

Source:
Nakano, Y., Moriuchi, M., Fukushima, Y., Hayashi, K., Suico, M. A., Kai, H., ... Shuto, T. (2020). Intrapopulation analysis of longitudinal lifespan in Caenorhabditis elegans identifies W09D10.4 as a novel AMPK-associated healthspan shortening factor. Journal of Pharmacological Sciences.
doi:10.1016/j.jphs.2020.12.004


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