高齢者では、日常の動きにランダムな変化が多くみられるほど、フレイルティ、障害および死亡のリスクが高くなる傾向があると、高齢者1,275例を13年にわたり対象とした大規模研究により示されている。この結果は、フラクタル生理学(fractal physiology)と呼ばれる手法に基づくものであるが、高齢者の日常の運動活動を分析することで、ウェルネス及び健康度を予測して、早期の介入により利益を受ける可能性のある高齢者を特定する助けとなることを示している。フラクタルというのは、数学や物理学で取り上げられることの多い、反復的・自己相似的なパターンのことである。この考え方は生物学や医学においても重要で、生物学的組織の構造の理解に利用することが可能であり、また生理学的指標(例えば動きなど)におけるフラクタルパターンの変化から、認知症などの疾患の存在を知ることができる。Peng Liらは、フラクタル生理学の手法を用いて、高齢者の長期健康転帰を評価できるかどうかを検討した。著者らは、高齢被験者1,275例(56~100歳)を登録し、彼らの日常運動活動について、手首に装着した活動モニターによりモニタリングを行った。統計モデルを用いて、著者らは驚くべき観察結果を得た。すなわち、2つのタイムスケール(1~90分、または2時間以上)において運動活動により大きなランダムな変動がみられた被験者では、続く13年間にフレイルティをきたす、あるいは日常活動に障害をきたすリスクが高かった。フラクタルな運動活動に変動がみられた被験者では死亡率も高く、「正常」な活動の下位10パーセンタイルとされた、すなわちよりランダムな変動を示した被験者では、90パーセンタイルの被験者と比べて、死亡の全リスクが1.6倍高かった。著者らによれば、フラクタル生理学の手法は健康度のモニタリングを行うための、また障害や疾患について症状が認められる前に早期徴候を特定するための有用なツールとなりうると考えられる。
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Journal
Science Translational Medicine