News Release

「マウスにおけるmiR-146bの欠損は造血器腫瘍を引き起こすことを発見」

小さなRNAが血液のがんを抑制

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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image: miR-146b knockout (KO) mice developed hematopoietic malignancy. view more 

Credit: Department of Systems BioMedicine, TMDU

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生再生医学分野の淺原弘嗣教授とシステム発生再生医学分野ならびに統合呼吸器病学の三ツ村隆弘大学院生の研究グループは、miR-146b ノックアウトマウスにおいて、造血器悪性腫瘍が発症することをつきとめました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究開発領域※における研究開発課題「RNA 階層における炎症の時間軸制御機構の解明」(研究開発代表者:淺原弘嗣) 、内藤記念科学振興財団、第一三共生命科学研究振興財団、文部科学省科学研究費補助金ならびに米国国立衛生研究所の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Blood Advances に、2018 年 12 月 7 日正午(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。

※本研究開発領域は、平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術 振興機構(JST)より移管されたものです。

【研究の背景】

microRNA (miRNA)は、標的 mRNA の翻訳抑制および/または分解をもたらす小さな非コード RNA です。 過去の報告により、miRNA は炎症、細胞分化、細胞増殖、および腫瘍形成を含む多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を示すことが示されています。TNFAIP3、CARD11、MYD88、および CD79A / B の遺伝的変異はリンパ腫の患者、特にびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫の患者にみられ、これらの変異は炎症や腫瘍形成において重要な転写因子である Nuclear factor-κB(NF-κB)活性の上昇を引き起こし、B 細胞における腫瘍形成の原動力であると考えられています。

miR-146a は当初、TNF 受容体関連因子 6(TRAF6)および IL-1 受容体関連キナーゼ 1(IRAK1)の発現低下を介して NF-κB 活性を抑制することができる NF-κB 誘導性 miRNA として同定され、miR-146a 欠損(ノックアウト)マウスは、T 細胞媒介性の多臓器炎症などの自己免疫を呈することが示されてきました。また、老化した miR-146a ノックアウトマウスは、リンパ球および骨髄悪性腫瘍を自然発生します。 miR-146a の相同遺伝子である miR-146b は、miR-146a と同じシード配列を有し、TRAF6 および IRAK1 の発現を抑制します。したがって、miR-146b もまた、腫瘍発生の防止において重要な役割を果たすことができると考えられましたが、miR146b の欠損による悪性腫瘍の発症は報告されていませんでした。また、腫瘍形成における miR-146b の生理学的役割および miR-146a と miR-146b の機能的差異は依然として明らかではありませんでした。

【研究成果の概要】

過去の報告で、miR-146a ノックアウトマウスは造血器悪性腫瘍を発症していることが示されていました。研究グループは、TALEN 法を用いて miR-146a ノックアウトマウスの作製を過去に報告していましたが、新たにmiR-146b ノックアウトマウスを作製しました。10-23 ヶ月齢の miR-146a ノックアウトマウスの 2 つのラインおよび miR-146b ノックアウトマウスに、それぞれ 38% (3/8), 33% (1/3), 19% (4/21) の割合で悪性腫瘍が発症することを示しました。また、miR-146a ノックアウトマウスで発症した B 細胞リンパ腫は悪性細胞がびまん性に広がり、核の異型も強いのに対し、miR-146b ノックアウトマウスで発症した B 細胞リンパ腫には結節状に広がり、また核の異型が弱いなど、形態に違いがみられました(図 2)。

マウスの脾臓 B 細胞に刺激を加えたところ、24 時間後から 72 時間後にかけて miR-146a および miR-146bはともに発現が増加しましたが、miR-146b の発現量は miR-146a に比べて低いことが示されました。一方、miR-146a および miR-146b を強制発現させたベクターを用いたルシフェラーゼアッセイを行うと、miR-146a および miR-146b はともに NF-κB を抑制する効果を示し、レポーターライブラリーシステムを用いた標的遺伝子のスクリーニングにおいて、共通の mRNA を標的にすることがわかりました。

さらに、miR-146a および miR-146b ノックアウトマウスの脾臓から分離した B 細胞は、増殖能が亢進していることがわかりました。

【研究成果の意義】

本研究では、miR-146b が悪性腫瘍の発症を抑制していることを明らかにしました。miRNA は様々な生体機能を調整することが知られており、本研究の結果は、miRNA が関与する疾患の病態解明や治療、バイオマーカー開発につながることが期待されます。

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