世界中で2億2千万人もの人々(そのうち約94%がアジア人)が、無味無臭で天然に存在する毒物であるヒ素を有害なレベルで含有する井戸水を飲むというリスクにさらされている可能性がある。持続的に存在するこの公衆衛生上の問題についての世界的な概要が、新たな研究により明らかにされている。この研究は、世界的な地下水のヒ素濃度についてこれまでで最も正確かつ詳細な予測マップを発表したものである。これによれば、ヒ素汚染の可能性があるとしてはこれまでに同定されていなかった地域、例えば中央アジアの地域や大西洋および広大な北極圏・亜北極圏の地域が示されている。微量のヒ素は実際にあらゆる岩石や堆積物の中に認められるが、健康に有害な影響を及ぼすほどの高濃度に達することは稀である。しかしながら、ヒ素には毒性があり、高濃度になると幅広い疾患、例えば神経疾患やがんなどを引き起こす。水中に溶解したヒ素は帯水層に蓄積する可能性があるため、汚染された地下水を飲むことは重大な曝露源である。このため、世界保健機関(WHO)がガイドラインで定めた飲料水中のヒ素濃度は10μg/Lである。ヒ素汚染による公衆衛生上の重大なリスクは十分に認識されている一方で、ヒ素は水質検査の対象物質のリストには一般的に含まれていない。またヒ素濃度の記録は不十分で信用できないとともに、一貫した検査は行われていないため、ヒ素に関するリスク評価は不確かなことが多い。Joel PodgorskiとMichael Bergは、世界中の地下水におけるヒ素に関する80件の研究からデータを統合し、機械学習を用いて世界的なヒ素汚染リスクのモデルを作製した。このモデルから得られたマップから、世界の地下水汚染リスクが明らかにされており、これには測定値がほとんど、または全く報告されていない地域も含まれている。この研究の結果によれば、最もリスクの高い地域として、アジアおよび南米の地域が含まれる。「米国では規準要件の対象に格差があるため、農村地域にいる何百万人もの米国人が、知らないうちにヒ素に曝露されたままとなっており、そこには社会経済的および行動的に脆弱な集団が高い割合を占めている」と、Yan Zhengは関連するPerspectiveで記している。
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