News Release

複数のスライスされた標本から、元の立体形状を復元する画像処理技術を開発

~ヒトの成長過程の解明にも寄与~

Peer-Reviewed Publication

Nara Institute of Science and Technology

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image: A set of histological serial sections of a human embryo (a) with organ annotations (b) and 3D reconstruction (c). view more 

Credit: Kajihara et al. 2019

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域の向川康博教授、舩冨卓哉准教授、久保尋之助教らの研究グループと京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センターの山田重人教授は、生体組織を薄くスライスした試料(連続切片)の顕微鏡像から、スライスする前の3次元形状を復元する画像処理技術を開発しました。本技術により、先天異常標本解析センターが所蔵するヒト胚子(主要な組織や器官が形成される受精後3~9週で、胎児になる前の状態)の連続切片試料から、元の3次元形状を復元することができました。この研究成果は、情報学における国際論文誌Pattern Recognition に採録されました。

組織を物理的にスライスする際に起こる変形の影響で、連続切片を積層してもきれいな3次元形状を復元することは困難でした。このため、顕微鏡で撮影した連続切片の画像を解析することで変形を推定し、これを補正しながらずれることなく順番に積層する技術を開発することで、スライスする前の立体的な形状を復元することに成功しました。

先天異常標本解析センターが所蔵するヒト胚子および胎児の標本群は世界最大の標本数で知られています。中でも、正常・異常合わせて1,000例に及ぶ連続切片標本は何十年も前に製作されたものが存在していますが、新規の標本を収集することは倫理的に難しく、完全な連続切片標本を新たに製作することは技術的にも難易度が高いことから、大変貴重な研究試料となっています。

今回開発した技術により、既存の連続切片標本からその3次元形状を復元することができ、器官などヒト胚子内部の形態を忠実に可視化することも可能となりました。ヒトの胚子や胎児はサンプルの稀少さから研究が困難であり、現代でも未解明な部分が多々ありますが、本技術により連続切片標本の活用が進み、ヒトの成長過程の解明に寄与することが期待されます。

【背景と目的】

先天異常標本解析センターが所蔵するヒト胚子の標本(京都コレクション)には、ホルマリン固定されたマクロ標本や、標本を薄くスライスして染色した試料である連続切片標本があります。胚子の成長過程の解析のため、マクロ標本を対象としたMR(核磁気共鳴)顕微鏡や位相コントラストX線CT等の3次元イメージングが用いられています。これらに対し、切片には染色された組織を顕微鏡で直接観察できる利点があり、前述の3次元イメージングよりも断面の解像度が圧倒的に高いことから、切片を積層して元の3次元形状を復元できれば、成長過程の更なる解析に寄与します。薄くスライスされた切片はそのまま積み重ねれば元の形に戻りそうに思われますが、実際には組織を薄くスライスするので、大きく変形したり、部分的に損傷したりするため、そのまま積層しても元の形には戻りません。そこで、顕微鏡を用いて計算機に取り込んだデジタル画像に対し、近接した切片同士を比較することで変形や損傷を検出する画像処理技術を開発しました。損傷した切片は除外して比較したり、変形を推定して補正したりすることによって、きれいな3次元形状を復元することに成功しました。

近接した切片間における変形の推定では、まずそれぞれの切片から特徴的な点を検出し、切片間での点の対応関係を推定します。次に、検出された対応点をグループ化し、グループごとに点同士が重なるような回転・平行移動を推定します。変形が小さい場合には全てのグループで同じようなものが推定されますが、変形が大きい場合にはグループによって異なるものとなり、大きな変形が起こっていたことが分かります。このような解析を基に、切片の変形を画像処理によって補正します。

本技術で最も特徴的なのは、数学的な手法を使い、各グループで推定された回転・平行移動を補間することで、画像全体での滑らかな変形を推定している点です。また、隣り合った切片だけでなく、少し離れた切片とも比較を行って変形を推定することでそのもっともらしさを評価し、損傷の大きな切片があったとしてもその影響を抑えて3次元形状を復元することができるようになりました。さらに、いくつかの標本に対してこの技術を適用し、きれいな3次元形状が復元できることが確認されました。

この技術開発により、顕微鏡を用いて染色した試料を直接観察することで、器官の成長度合いなどを詳細に解析することができ、ヒト胚子内部の構造を可視化することができるようになりました。なお、本研究で用いた標本群については、京都大学の倫理委員会において「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成27年4月施行)に基づいた承認(R0316)を得ております。

【今後の展開】

論文投稿時には4つの標本に対していずれも良好な結果が得られることを確認し、その効果についての定量的な分析結果をまとめました。その後も、さまざまな成長過程にある10程度の標本にも新たに本技術を適用したところ、良好な結果が得られることが定性的に確認され、ヒト胚子の成長過程の解析に役立てられています。本技術はヒト胚子のみならず、さまざまな生体組織に対しても適用できると考えられ、連続切片画像を通した3次元形態解析への活用が期待できると思われます。

一方、いくつかの個体において、3次元形状を復元した結果が全体的に大きく歪んでしまう事例も確認されており、改良の余地が残されているため、今後も研究を継続していく予定です。

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【掲載論文】

タイトル: Non-rigid registration of serial section images by blending transforms for 3D reconstruction

著者: Takehiro Kajihara, Takuya Funatomi, Haruyuki Makishima, Takahito Aoto, Hiroyuki Kubo, Shigehito Yamada & Yasuhiro Mukaigawa

掲載誌: Pattern Recognition

DOI: 10.1016/j.patcog.2019.07.001

【研究室ホームページ】

http://omilab.naist.jp/index.html


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