News Release

細菌感染が造血幹細胞に与えるストレスを解明

細菌感染が貧血や白血病を引き起こす可能性が明らかに

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Bacterial infection decreases ability to produce blood

image: Bacterial infection activates hematopoietic stem cells in the bone marrow and significantly reduces the ability to produce blood through induced proliferation. view more 

Credit: Professor Hitoshi Takizawa

 細菌感染時には、免疫細胞が防御線として働くと考えられていましたが、最近の研究から血液を造る非免疫細胞である造血幹細胞も感染に対して反応することが明らかになりつつあります。日本とスイスの研究者らは、日本とスイスの研究者らは、細菌感染が骨髄にいる造血幹細胞を活性化し、強制的に増殖を誘導するストレスを与えて血液を産生する能力を著しく低下させることを見出しました。今回の発見は、細菌感染が引き金となり造血不良や白血病化が起きる可能性を示しており、それらの血液疾患に対する新たな予防法を考える上で重要な知見となります。

[背景] −細菌感染と免疫反応−  

人にウイルスや細菌が感染すると、血液またはリンパ液の中にあるリンパ球の一種、免疫細胞と呼ばれる細胞が細菌に対して反応します。その際、一部の免疫細胞は「Toll様受容体」という細胞表面にあるセンサーをつかって、病原菌を自分の分子(自己)とは異なるもの(非自己)として見分けています。そうすることによって、自分を攻撃することなく病原菌を特異的に攻撃することができ、最終的に駆逐することでからだを守っているわけです。

 骨髄にはリンパ球や赤血球などの他にそれらを造ることのできる幹細胞、いわゆる造血幹細胞が存在し、一生を通じて血液を造り続けています。感染時には活性化した免疫細胞が大量に消費されるため、骨髄での血液産生を増やして免疫細胞を補充する必要があります。最近の研究から、免疫細胞だけでなく造血幹細胞も感染に伴う危険信号を探知して、血液産生を変化させることが明らかになってきました。しかし、この造血幹細胞が細菌感染に対してどのように反応するのか、またその結果、幹細胞機能がどのように影響を受けるのかについてほとんど分かっていませんでした。

[検証] −細菌感染に対応する幹細胞−

 そこで、熊本大学とチューリッヒ大学の研究者らは免疫細胞だけでなく造血幹細胞もToll様受容体を持つことに注目して、細菌感染におけるToll様受容体の役割を解析しました。細菌をつくる分子の一つであるリポ多糖は敗血症を引き起こす原因分子として知られています。このリポ多糖を実験動物に与えて、細菌感染モデルを作製しました。また、Toll様受容体や関連分子をもたない遺伝子組換え動物や分子を阻害する薬剤をうまく組み合わせることで、これらの遺伝子の役割を詳細に解析しました。

 これらの解析の結果、全身に広がったリポ多糖の一部は骨髄にまで到達し、造血幹細胞のToll様受容体を刺激して、造血幹細胞を増殖させることが分かりました。しかし、この刺激は増殖を促すと同時に造血幹細胞にストレスを誘導します。つまり、刺激によって造血幹細胞は一時的に増殖するのですが、 うまく自己複製分裂ができなくなり、結果的に血液を造り出す能力が弱まることが分かりました。これはリポ多糖だけでなく、大腸菌(サルモネラ菌)に感染させた時にも同様の結果が引き起こされることが分かりました。

[今後の展望]

 今回の研究では、免疫反応を担当しない造血幹細胞も細菌感染に対して反応し、血液をつくる能力に不具合が生じることが分かりました。これは、細菌感染が起こると造血幹細胞の細胞分裂が強制的に誘導され、そのストレスが蓄積した結果として貧血などの造血不良や白血病などの癌化を引き起こす可能性を示唆しています。

 研究を主導した熊本大学国際先端医学研究機構の滝澤仁特別招聘教授は次のようにコメントしています。「しかしながら、この反応を薬で阻害できることも今回の研究で明らかになりました。病原菌に対する免疫反応を弱めることなく、血液・免疫細胞の産生を維持することができることが確認されました。今後、多くの細菌感染に対して、感染防御と血液疾患の予防を同時に行えることが可能になると期待されます。」

本研究成果は、「Cell Stem Cell」に2017年7月21日掲載されました。また、研究内容のイラストが表紙にも選ばれました。

[Resource]

Takizawa, H.; Fritsch, K.; Kovtonyuk, L. V.; Saito, Y.; Yakkala, C.; Jacobs, K.; Ahuja, A. K.; Lopes, M.; Hausmann, A.; Hardt, W.-D.; Gomariz, Á.; Nombela-Arrieta, Cé. & Manz, M. G., Pathogen-Induced TLR4-TRIF Innate Immune Signaling in Hematopoietic Stem Cells, Promotes Proliferation but Reduces Competitive Fitness, Cell Stem Cell, Elsevier BV, 2017.

DOI: 10.1016/j.stem.2017.06.013

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