首都大学東京理学研究科の栗田玲准教授(兼東京大学生産技術研究所リサーチフェロー)、東京大学生産技術研究所の田中肇教授の研究グループは、亜リン酸トリフェニルという物質において結晶化挙動について調べました。この物質は、室温付近で安定だった液体(液体1)が、ある温度(スピノーダル温度と呼ぶ)以下で不安定化し、もう一つの液体状態(液体2)に連続的に転移する液体・液体転移現象を示すことが知られています。また、同グループの過去の研究から、液体1から液体2への転移は、液体・液体転移に関係した局所安定構造の増大により引き起こされることがわかっていました。そこで、この転移に伴う局所安定構造の臨界的な揺らぎが結晶化にどのような影響を与えるかについて調べたところ、結晶の核形成頻度がスピノーダル温度に向かって、古典的な結晶化理論の予測をはるかに超え異常に増大することを実験的に見いだしました。この発見は、局所安定構造の空間的な揺らぎが、結晶の誕生に大きな影響を与えることを示唆します。
液体を融点以下に冷却すると、液体より結晶が安定な過冷却状態となり、その結果、まず結晶核が形成され、それが成長することで結晶化します。この結晶化の際の核形成頻度を表す古典論がありますが、この理論では、他に相転移が存在する場合にどのような影響があるかは考慮されていませんでした。今回の実験により、液体・液体転移に伴う臨界的な揺らぎによって、結晶化の核形成頻度が発散的に増大することが初めて示されるとともに、その局所安定構造の数密度が高い領域、すなわち液体2的な領域では、液体と結晶の界面張力が低下するために、結晶が生まれやすくなるというメカニズムが明らかになりました。つまり、結晶とより相性のいい液体2的な領域があると結晶は生まれやすくなると言えます。
この成果は、系に内在する他の相転移現象を利用することで、古典的な結晶化理論を超えた結晶化挙動を実現する、この現象を利用して系に潜む隠れた相転移現象を探索するなど、結晶化の新たな可能性を切り開くものと期待されます。
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本研究成果は、11月25日(米国東部時間)の週に米国科学アカデミーが発行する英文誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに発表されました。本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金(基盤B No. 17H02945, 基盤S No. 21224011, 基盤A No. 18H03675, 特別推進研究 No. 25000002)の支援を受けて行われました。
Journal
Proceedings of the National Academy of Sciences