有機‐無機複合物質であるペロブスカイト材料は、次世代型太陽電池には欠かせない材料です。このペロブスカイト材料の特性を理解することは、太陽電池の耐用年数を延ばし、品質を向上させるために重要です。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヤビン・チー准教授率いるエネルギー材料および表面科学ユニットの研究者らは、台湾の東呉大学の李有勇(Youyong Li)教授のグループおよび韓国の成均館大学校の朴南圭(Nam-Gyu Park)教授のグループと共同で、有機‐無機ペロブスカイト材料の原子分解能について世界に先駆けて調べ、その成果を米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)に発表しました。
一般的に、ペロブスカイトとは、ABX3の化学式を持つ化合物のことを言います。AおよびBは、陰イオンXと結合する陽イオンを表しています。通常、太陽電池では、有機-無機ペロブスカイト化合物は、メチルアンモニウムハロゲン化鉛(CH3NH3PbX3:Xは臭素、ヨウ素、または塩素)が使用されます。OISTの科学者らは、走査型トンネル顕微鏡を使用して、メチルアンモニウム臭化鉛(CH3NH3PbBr3)の単結晶の表面のトポグラフィー画像を得ることに成功しましたた。
この走査型トンネル顕微鏡は、点字をなぞる指の動きと非常によく似た方法で、物質の表面上を導電性チップが移動します。指がそれぞれ数ミリメートルずつ離れている点字サイン上の突起を知覚するのと同様に、顕微鏡はそれより100万倍も小さい原子や分子の突起を検出します。この検出は、量子トンネル効果(通常は超えることのできない障壁を通り抜ける電子の性質)によって達成されます。電子が材料表面とチップの間を通り抜ける可能性は、これら2つの物質間の距離に左右されます。このため、結果として生じる原子分解能のトポグラフィー画像により、原子および分子の位置と配向があきらかになるのと同時に、表面上の構造的欠陥の詳細な様子もあきらかになります。
OISTエネルギー材料および表面科学ユニットのメンバーで、本論文の筆頭著者であるロビン・オーマン博士は、「室温では、原子および分子は活発に動いているため、より明確な原子構造の画像を得るために、我々は結晶を絶対0�Cに近い-269�Cの温度にまで凍結させることにしました」と述べています。表面上の汚染を防ぐために真空内で結晶を切断し、実験を行いました。東呉大学の共同研究者たちは、量子物理学の原理に基づき原子構造計算を行い、走査型トンネル顕微鏡のデータとの比較を行いました。
研究者らは、メチルアンモニウム分子が回転すること、およびそれらの分子の回転によって明らかに異なる特性を持つ2種類の表面構造を生み出すことを発見しました。また、回転とは別に、このメチルアンモニウム分子は隣接する臭素イオンの位置に影響を及ぼし、その結果、原子構造にさらなる変化をもたらします。この構造によって材料の電子的性質が決定されることから、原子の幾何学的位置は太陽電池を理解するために不可欠な要素です。
さらに、走査型トンネル顕微鏡による画像により、分子およびイオン(そしておそらく、欠落している原子)の転位によって引き起こされた局所的な欠陥もあきらかになります。これらの欠陥により、伝導性などの電気特性が変容するなど、機器の性能に影響が及ぼされるともあります。
ペロブスカイト材料の構造は温度感応性が高く、凍結した結晶を室温下で観察した場合、必ずしも完全に同一の構造が観察されるわけではありません。しかしながら、原子レベルでのペロブスカイト結晶を包括的に説明することは、実際的な環境条件におけるこれらの結晶の挙動を理解するのに役立ちます。現時点での発見は、有機‐無機結晶の表面における分子およびイオン間の相互作用を解明するものであり、太陽電池の将来像のより良い設計を実現するのにも役立つと考えられます。研究者らは、ペロブスカイトとその他の分子(たとえば、太陽電池の性能に影響することが知られている水分子など)の間における相互作用を解明することを、次の目標としています。
Journal
Journal of the American Chemical Society