熊本大学の研究者らが、血液中に含まれるわずかながん細胞を簡便に分離・捕捉することができるマイクロフィルタデバイスを開発しました。手のひらサイズの本デバイスは、血液検査のみの簡単な検査によるがんの早期発見や術後の管理、再発モニタリングなど、血液中のがん細胞を基にした新たながん診断技術実現への貢献が期待されます。
がんに罹患した人の血液には、がんの原発巣から剥離したがん細胞(CTC)がわずかに混入していることが知られています。しかし、その量は血液1mL中に50億個ほど存在する赤血球や白血球などの血球細胞と比べて数個~10個程度と言われており、分離・捕捉(検出)するのは非常に困難でした。また、これまでにもCTCを検出するデバイスは開発されてきましたが、高額な装置や試薬が必要であり、実用化する際のボトルネックになっていました。
本研究では、大型の装置を必要とせず、安価かつ簡便にCTCを分離・捕捉することを目的とし、独自のマイクロフィルタデバイスを開発しました。本デバイスは血液を送液する際の流体力によって動的かつ3次元的に変形し、また、標的分子に対して抗体のように特異的かつ強固に結合する核酸である「核酸アプタマー」を利用することで、サイズ選択的かつアフィニティ選択的*2ながん細胞の分離・捕捉を実現しました。
健常者の血液に異なる濃度でがん細胞を混入した血液サンプル1mLを用いて、開発したデバイスのがん細胞検出能を評価しました。その結果、血液1mLに5個のがん細胞を混入した場合でも検出できることを実証しました。血液1mL中には赤血球や白血球などの血球細胞が50億個程度存在することから、開発したデバイスは非常に高い検出能を持つことが証明されました。また、マイクロフィルタ上には血球細胞はほとんど吸着しておらず(98%以上の血球除去率を達成)、高い選択的検出能を持つことも明らかにしました。さらに、開発したデバイスと既存のがん検出装置との比較評価を行った結果、既存装置よりも高い精度でがん細胞を検出できることを証明しました。
開発したマイクロフィルタデバイスを用いることにより、血液にわずかに含まれるがん細胞を精度よく検出できることを実証しました。開発したデバイスは、CTやPETなどの画像検査では検出されないがんの早期診断や術後の経過観察、再発のモニタリング、オーダーメイド治療など、がんの診断や治療に対する新しい技術となることが期待されます。今後は実際のがん患者から提供された血液サンプルを用いることにより、実用化や臨床応用を目指した検証を進めて行く予定です。
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本研究成果は、科学誌「Talanta」に令和3年6月1日に掲載されました。
Source:
Fukuyama, S., Kumamoto, S., Nagano, S., Hitotsuya, S., Yasuda, K., Kitamura, Y., ... Nakashima, Y. (2021). Detection of cancer cells in whole blood using a dynamic deformable microfilter and a nucleic acid aptamer. Talanta, 228, 122239. doi:10.1016/j.talanta.2021.122239
Journal
Talanta