- 研究チームは、比較的新しい自然保護区で、こうした保護区が森林減少にどの程度効果があるか世界規模の調査を行った。
- 自然保護区の保全効果を国別に調査した本研究では、南アフリカ、カンボジア、ラトビア、グアテマラ、ウルグアイ、ブラジル、ニュージーランドで高い保全効果が見られた。
- 研究チームは、2000年から2012年に設定された自然保護区全体で、86,062平方キロメートルの森林が消失を免れたと推定した。
- 世界各国の自然保護区の保全効果が、最も高い水準の隣国と仮に同等であったならば、さらに33,020平方キロメートルの森林が保全されていた可能性が示された。
- 機械学習により、保全効果には農業生産活動や経済成長およびガバナンスが関係していることが判明した。
この度、自然保護区の森林保全効果に関する世界規模の研究が発表されました。
本研究は、Environmental Research Letters誌に掲載され、各国の国立自然保護区が効果的に森林減少を抑制できているかを調査し、機械学習を用いて保全効果に違いをもたらす要因を明らかにしたものです。
本論文の筆頭著者で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のサイエンス・テクノロジーアソシエイトとして、保全に経済理論を応用する研究を専門としているパヤル・シャー博士は、次のように述べています。「自然保護区は、地球上の生物多様性や生物の生息地の消失を食い止めるために必要不可欠で、重要な保全手段です。」
さらに、次のように続けています。「科学界は、2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保護することを呼びかけています。しかし、陸の保護区を拡大させると同時に、政策立案者が将来の保全活動に関してより多くの情報に基づいて決断を下せるようにするため、各自然保護区でどの程度の保全効果が見られるかを測定することが重要になってきます。」
研究チームは、2000年から2012年までの森林被覆率の衛星データを使用し、この期間に設定された自然保護区に焦点を当てました。また、自然保護区の面積が十分でない国は、分析の対象から除外しました。
分析対象として残った81カ国では、320万平方キロメートルが自然保護区として設定されていました。研究チームは、自然保護区における森林被覆の変化を、統計的な手法でマッチさせた非保護区における変化と比較することで、自然保護区にどの程度の保全効果があったかを推定しました。自然保護区と非保護区のマッチングは、都市までの距離、海抜、土地の傾斜など、森林減少の予測に重要な因子を用いて行われました。
「本研究の目的は、自然保護区がなかった場合、どれだけの森林が破壊されていたかを理解することです」と、シャー博士は説明します。
研究チームは、2000年から2012年の間に新たに設定された自然保護区全体で、約34,000平方キロメートル(ベルギーの面積より大きい)の森林が失われたことを発見しました。しかし、同保護区が設定されていなければ、さらに86,062平方キロメートルの森林が消失していたと推定しています。
「自然保護区全体で森林破壊が72%抑制されたというのは、素晴らしいニュースです。しかし、データを国別に分類してみると、より複雑な結果が明らかになります」と、シャー博士は説明します。
科学チームは、ある国々では、同じ地域内の他の国々よりも自然保護区の保全効果が著しく高いことを確認しました。アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、オセアニアの各地域では、それぞれ、南アフリカ、カンボジア、ラトビア、グアテマラ、ウルグアイ、ブラジル、ニュージーランドが上位を占めました。
研究チームは、世界各国で自然保護区の保全効果が、各地域で最大の効果を示している国と同等であったら、さらに33,020平方キロメートルの森林が保全され、新たに設定された自然保護区での森林減少はおよそ1,000平方キロメートルに抑えられていただろうと推測しています。
シャー博士は、次のように説明しています。「各地域において、同じ地域内の国々は、森林減少の主な要因として、木材伐採や山火事など、似通った問題に取り組んでいます。つまり、理論上は、どの国も同じような成果を上げることができるはずです。しかし、自然保護区の効果には大きな違いが見られます。だからこそ、その根本的な要因を理解したいのです。」
明らかになった主な要因の一つに、自然保護区における規制の厳しさに基づくものが挙げられます。規制の厳しさは、自然保護区で許可される人間活動や天然資源の利用の度合いに基づいて分類されます。ほとんどの国において、規制が厳しい自然保護区の方が、そうでない保護区よりも高い保全効果を示しました。
次に、各国の人口統計、農業、経済、政治に関するデータを機械学習アルゴリズムに入力し、どの要素が各国の自然保護区ネットワークの保全効果に最も強く関連しているかを特定しました。
その結果、経済成長率が高い国ほど、自然保護区による保全効果が高いことが明らかになりました。
一方、農業生産活動が盛んな国では、自然保護区の保全効果が低い傾向にあり、特にガバナンスの質が低く、農村部の人口が増加している国で保全効果が低いことがわかりました。
「農業と森林破壊は密接に関係していることが多いので、この結果は予想どおりでした。陸地は限られた資源なので、農業生産活動が盛んで適切なガバナンスを持たない国の自然保護区では、森林破壊の圧力が大きい可能性があります」とシャー博士は説明します。
しかし、これらの関連性の理由を特定するためには、国ごとにさらに詳細な調査を行う必要があると研究チームは強調しています。
シャー博士は、次のように語っています。「グローバルな分析を行った本研究では、どの国の自然保護区が効果的で、どの国がそうでないのかを正確に把握することができます。そして、これらの国でより的を絞った研究を行い、より効果的な保全戦略を行う支援をすることができるでしょう。」
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Journal
Environmental Research Letters