小林優介 理学研究科博士課程学生、西村芳樹 同助教を中心とするグループは、山口大学、東京工業大学、法政大学、立教大学、日本女子大学と共同で、葉緑体がもつ「葉緑体DNA(葉緑体核様体)」の分配(遺伝)を制御する遺伝子MOC1と、この遺伝子がコードする葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素を発見しました。ホリデイジャンクションとはDNA損傷の修復、複製、減数分裂の際にみられる、 DNA配列がよく似た部分同士で組み換え(相同組み換え)が進む過程であらわれる構造ですが、葉緑体核様体ではこの構造がどのように切断されているかわかっていませんでした。今回の基礎的な発見から、葉緑体における相同組換え機構の解明、さらには新たな物質生産に向けた応用研究への展開も期待されます。
本研究成果は、2017年5月12日午前3時に米国の科学誌「Science」に掲載されました。
光合成の場である葉緑体には、シアノバクテリアを起源とする独自の葉緑体DNAがあり、それが多様なタンパク質によって折りたたまれて「核様体」を構築します。葉緑体核様体は、いわば葉緑体にとっての「核」であり、細胞核の場合と同様に、その複製・分配は葉緑体の分裂に先立って行われます。核様体の複製や分裂・分配(遺伝)は光合成の維持や植物の生存上必須な要素ですが、これがどのようなしくみで制御されているのかは不明でした。
本研究グループは、葉緑体核様体の観察や遺伝学的解析が容易な単細胞緑藻クラミドモナスを対象としました。葉緑体核様体の形が異常なmoc変異体を単離し、その原因遺伝子同定の過程で、MOC1という未知の遺伝子に辿り着きました。この遺伝子は緑藻だけでなく陸上植物においても広く保存されています。MOC1 がコードするタンパク質の構造予測を元にした生化学的解析をおこなったところ、このタンパク質がホリデイジャンクションの中央に結合して、構造を正確に切断する葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素であることが明らかになりました。
さらにDNAオリガミ(長いDNA鎖と「のり」の働きをする短いDNA鎖を組み合わせ、さまざまな構造を設計できる技術)と原子間力顕微鏡技術を組み合わせ、ホリデイジャンクションが切断される様子の観察に挑戦しました。その結果、MOC1タンパク質がホリデイジャンクションの中央部に結合し、切断する様子をはっきりと捉えることに成功しました。
今回の研究の結果、ホリデイジャンクション解離酵素が葉緑体において初めて同定されました。そしてMOC1遺伝子は葉緑体分裂に伴って葉緑体核様体を正確に分配(遺伝)させる上で欠かせないものであることが分かりました。今回発見したホリデイジャンクション解離酵素がどのようにしてホリデイジャンクションを正確に認識し、結合し、切断するのか、加えてどのような因子と相互作用して相同組換えを実現しているのかを調べていくことで、葉緑体における相同組換え機構の理解が進むはずです。それにより、葉緑体自身のDNA修復能力を高め、変異を引き起こすような環境に適応する能力の高い植物の創出につながるかもしれません。また葉緑体形質転換技術の向上、さらには葉緑体を利用した新たなものづくりにも貢献できるかもしれません。
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