News Release

“平面反射”なのに光が自由に“曲がる・広がる”?

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

image: Schematic illustration (left) and photos (right) of a standard cholesteric liquid crystal device. The green bars in the left figure are guides indicating positions with the same helix phase. Cholesteric liquid crystals reflect circularly polarized light with the same handedness as the helical structure and with wavelength fulfilling the Bragg condition (refractive index Ã� helical pitch). In the right figure, purple light with right circular polarization is reflected. view more 

Credit: Osaka University

本研究成果のポイント

  • 平面鏡のような機能をもつコレステリック液晶※1 から反射される光の波面※2 を任意に制御する技術を開発
  • 通常であれば鏡面反射が起こる平板型のデバイスにおいて偏向※3 機能やレンズ機能を実現
  • 円偏光※4 選択性を持つ高機能かつ安価な反射型の光学デバイスとして幅広い応用に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の吉田浩之助教、小橋淳二大学院生、尾崎雅則教授の研究グループは、棒状分子が自発的にらせん構造を形成するコレステリック液晶からの反射波面を自由に制御する技術を開発しました。これにより、これまで平面鏡のような機能しか持たなかったコレステリック液晶に、反射光の偏向機能やレンズ機能を付与することが可能となりました。更に、コレステリック液晶が従来もつ、円偏光のみを選択的に反射する機能は維持されるため、特定の円偏光のみを反射させながら偏向したり、集光したりできる、ユニークな光学デバイスを実現することが可能となりました。

本材料は光を遮断する機能をもつ薄型の光アイソレータ※5 やウェアラブルデバイスとして市場に普及しつつあるスマートグラス※6 用の折り返しミラーなど、高機能かつ安価な反射光学デバイスへの応用が期待されます。

本研究成果は4月11日(月)(英国時間午後4時)発行の英国科学誌「Nature Photonics」オンライン版に掲載されました。

研究の背景と研究成果

コレステリック液晶は棒状分子が自発的にらせん構造を形成する材料であり、らせん構造に起因して、特定の波長をもつ、らせんと同じ巻き方向の円偏光をブラッグ反射※7 します(図1)。この特性を利用して円偏光デバイスや電子ペーパーなどの応用が検討されてきましたが、これまでの研究では、コレステリック液晶は入射角と反射角が常に等しい鏡面反射しか示すことができず、視野角特性が優れないなど、性能が限られていました。

このような中、研究グループはコレステリック液晶から反射される光の位相がらせん構造の位相(らせん位相)によって変わることを見出し、らせん位相の空間的な制御を通して、反射光の波面を任意に設計できることを明らかにしました。理論解析により動作原理を明らかにした後、光配向法※8 により、実際にコレステリック液晶のらせん位相の空間分布を形成しました。グレーティング※9 やレンズの形状を持つパターニングを行った結果、平板型のデバイスであるにも関わらず、パターンに応じて反射光の偏向や、集光・発散が生じることが示されました(図2)。更に、デバイスの円偏光選択性が失われないことから、らせんと同じ巻きの円偏光に対してのみ機能が発現する、ユニークな光学デバイスが実現できることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

コレステリック液晶が本来有する円偏光選択性を活用することで、高効率な光学デバイスとしての応用が期待できます。例えば、反射によって円偏光がその回転方向を反転させることを利用すれば、偏向機能を持つデバイスを薄型の光アイソレータとして応用することができます。また、スマートグラスの折り返しミラーに本材料を用いて、円偏光照明を組み合わせれば、100%近い効率で情報を表示できると考えられます。結果として、現実世界の風景も、スマートグラスで映し出される付加情報もともに明るく、明瞭に見える、高機能なデバイスの実現が可能となると期待されます。

光の波面を制御するその他の技術として、微細な金属あるいは誘電体構造からなるメタサーフェス※10 が注目を集めていますが、その作製には極めて精密・高コストな加工技術が必要となります。コレステリック液晶は構造が自己組織的に形成される分子性材料であるため、大きなデバイスも比較的容易に作製でき、将来的には印刷技術等によるデバイス作製も期待できるなど、有機材料ならではの特徴があります。本技術は今後、高機能かつ安価な光学デバイスの創出に貢献することが期待されます。

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特記事項 Nature Photonics

本研究成果は平成28年4月11日(英国時間午後4時)にNature Publishing Group の『』のオンライン版に掲載されました。

【論文タイトル】Planar Optics with Patterned Chiral Liquid Crystals
【著者】Junji Kobashi, Hiroyuki Yoshida, and Masanori Ozaki
【doi番号】10.1038/nphoton.2016.66

また、本研究は科学技術振興機構のさきがけプロジェクト「超空間制御と革新的機能創成」、大阪大学フォトニクスセンターおよび日本学術振興会の科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 コレステリック液晶
液晶とは異方的な形状の分子が集団的に向きを揃えて並んだ(配向した)物質の状態であり、分子配列秩序によって多くの液晶相に分類されている。コレステリック液晶とは分子の配向方向がらせん秩序を形成する液晶相を指す。

※2 波面
光は波として伝搬するが、光波の等位相面を波面と呼ぶ。

※3 偏向
光は直進する性質を持つ。進行方向をある方向に曲げることを偏向という。

※4 円偏光
光は電界と磁界が振動する電磁波であり、その中でも電界成分の振動方向を偏光と呼ぶ。円偏光とは、光の電界成分が円を描くように振動するものを表す。

※5 光アイソレータ
光を一方向のみに通す性質を持つ光デバイスのこと。

※6 スマートグラス
メガネのように装着し、現実世界に追加の情報を表示するウェアラブルデバイスのこと。

※7 ブラッグ反射
屈折率の異なる透明な膜が積層した構造体において、各々の層で反射された光波が干渉した結果、特定の色のみが強く反射される現象。

※8 光配向法
基板表面に成膜した薄膜に直線偏光した光を照射することで膜を変質させ、その膜に接する液晶分子の並ぶ方向を規定する配向制御手法の1つ。

※9 グレーティング
用水路の蓋のように、形状が周期的に変化した構造。形状が2段階に変化するバイナリグレーティングや、鋸歯状のブレーズドグレーティングなどの種類がある。

※10 微細な金属あるいは誘電体構造からなるメタサーフェス
コの字型やV字型など様々な形状を持った金属や誘電体でできた極小の構造を、その形状や向きを空間的に変えつつ配置することによって、透過あるいは反射した光の波面を制御するデバイス。

参考URL

英国科学誌(physicsworld)
http://physicsworld.com/cws/article/news/2016/apr/15/patterned-liquid-crystals-guide-light-through-planar-lens

大阪大学大学院 工学研究科電気電子情報工学専攻電子工学部門分子機能材料デバイス領域 尾崎研究室HP
http://opal.eei.eng.osaka-u.ac.jp


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