新しい7つの研究を特集した一括記事で、酵母ゲノム合成プロジェクト(Sc2.0)で以前に1本の酵母染色体を構築した科学者らが今回さらに5本の染色体の構築に成功したと報告している。合計するとこれで酵母の全ゲノムの3分の1以上が構築されたことになる。Sc2.0プロジェクトでは将来的に16本の酵母染色体を全て操作したものに置き換えたいと考えており、今回の結果は完全合成の複雑な生物の初構築に向けた大躍進であった。設計生物学にとって重要なモデルであるパン酵母はすでにビールやバイオ燃料、薬剤の製造に使用されているが、この単細胞生物は今回設計されたような可変性の合成染色体が一式揃えば、より品質の高いこういった必需品、たとえば新しい抗生物質やさらに環境に優しいバイオ燃料などを作り出せるのである。2014年3月、Jef Boeke率いる研究者らが酵母の真核生物染色体synIIIの構築に初めて成功した。今回、本号に掲載されている研究論文では、酵母染色体synII、synV、synVI、synX、 synXIIの初めてのアセンブリについて詳細が述べられている。6本目の論文ではパン酵母の完全合成した真核生物ゲノムの構築の手順と目的が述べられ、7本目の論文では複数の合成染色体を持つ株を含めて、一部の合成染色体の三次元構造の様子が初めて提示されている。
今回の一括記事に示された染色体構築作業では特別設計のソフトウェアBioStudioが初めて使用され、関心の対象になっている染色体が慎重に設計された。これには小さな変更(たとえば、遺伝子の間で反復していたり、使用頻度が低かったりするDNA領域の一部の除去)が含まれる。DNAのかなり大きな領域を1つの染色体から別の染色体へと移動させた例もあった。そういった変化を受けても、操作されたその染色体が生きた酵母細胞に一旦導入されると、細胞は正常に成長したとBoekeらは述べている。この可塑性は、より大きな変更さえも可能であるということ、ゆくゆくはゲノム操作を通して酵母がより有用な物を産出できる限界を探って行くことになることを示唆している。重要なのは、Boekeらは多くの場合loxPsym siteと呼ばれる遺伝子マーカーを設計した染色体上の不必要と考えられる遺伝子に沿って置いたことである。そうすることで、これらの遺伝子を変更したり削除したりして、操作されたこれらの染色体を持つ酵母が生き残るかどうかを確認することができた。loxPsym siteを挿入して必要な遺伝子の発現を減らし、酵母にとって厳しい状況を作ったケースもあった。これらの結果は生存に必要な遺伝子の構成をさらに明確にする上で役立つ。今回の一連の研究記事では再構築された染色体の「デバッギング」を目的とした新システムの開発についても記録されている。設計には細心の注意を払っても、合成染色体は生きた細胞に導入された際に機能不全を起こすことがある。この理由は解明すべきで、そのための調査はこの研究グループの新技術によって確実に加速する。
他の応用について言えば、ここで概要を述べた方法によって遺伝子操作の新時代への道筋がついた。たとえば現在は単一遺伝子のデリバリーに限られている遺伝子治療では、今後は治療目的で遺伝子ネットワーク、経路、同義遺伝子のデリバリーもできるまでに拡大すると考えられる。PerspectiveではKrishna KannanとDaniel G. Gibsonがさらなる見解を述べている。
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