News Release

ヒトiPS細胞で小児腎臓病を再現

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

糸球体ポドサイトとろ過膜

image: 

A: 糸球体の構造 

B: ポドサイトの拡大写真。多数の突起をもつ。 

C: ポドサイトの突起間に存在するろ過膜の模式図。ろ過膜の主成分であるネフリンが、篩を形成する。 view more 

Credit: Prof. Ryuichi Nishinakamura

先天性の腎臓病に大きな光明です。腎臓のろ過膜を構成するネフリンに変異を持つ患者さんの皮膚からiPS細胞を樹立し、この細胞から誘導した腎臓組織で先天性腎臓病の初期病態を再現することに熊本大学の研究者らが成功しました。ネフリンの異常は他の腎臓病にも多く見られるため、腎臓病研究が大きく進展することが期待されます。

腎臓は血液中の老廃物をろ過して排出する臓器ですが、その際に血液中の蛋白質は尿中には漏れないようになっています。これを司るのが糸球体のポドサイトに存在するろ過膜であり、ネフリンという物質がその主な構成要素です。そのため、ネフリンに遺伝子変異があると、血液中の蛋白質が尿に大量に漏れ、先天性のネフローゼ症候群を呈します。根治的治療は困難であり、ろ過膜を人工的に再現する手法がないことが研究進展のボトルネックになっていました。

人工的に腎臓を作ることは極めて困難とされていましたが、熊本大学の研究グループは2014年に、世界で初めてヒトiPS細胞から試験管内で腎臓組織の作製に成功しました。さらに2016年には、iPS細胞から誘導した糸球体のポドサイトがネフリンを強く発現していること、ポドサイトへの誘導の途中でマウスに移植するとヒト糸球体がマウス血管と繋がり、ポドサイトの成熟が進むことを見出しました。そこで今回は、これらの技術を患者さん由来のiPS細胞に応用することにしました。

まず、ネフリンに1ヶ所だけ変異をもつ先天性ネフローゼ症候群の患者さんの皮膚からiPS細胞を樹立しました。そこから試験管内で腎臓組織を誘導したところ、本来糸球体ポドサイトの表面に存在すべきネフリンが細胞内に留まり、ろ過膜の前駆体をほとんど作れないことがわかりました。誘導の途中でマウスに移植すると、通常はポドサイトの成熟が進んで、ネフリンが血管側に移動してくるのですが、患者さん由来のものではそれも障害されていました。つまり、この先天性腎臓病の初期病態をiPS細胞によって再現したことになります。

さらに、患者さん由来のiPS細胞でネフリン変異を修復してから腎臓組織に誘導したところ、上記の異常は正常化しました。つまり、このたった1つの変異が病気を起こす原因であり、この変異を修復すると治療ができる可能性を示しました。

研究を主導した西中村隆一教授は次のようにコメントしています。

「先天性ネフローゼ症候群の病態が再現できたことで、このポドサイトを使って治療薬の探索ができる可能性があります。成人で腎臓病が発症する場合も蛋白尿で始まることが多く、ろ過膜、つまりネフリンに何らかの障害が生じる可能性が指摘されています。ネフリンの動態を制御する薬がみつかれば、腎臓病に広く効く可能性も出てきます。従って、今回の成果は、ポドサイトに作用して蛋白尿を減らす薬の開発に向けた大きな前進といえます。」

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本研究成果は、科学ジャーナル「Stem Cell Reports」に平成30年8月30日に掲載されました。

*本研究成果は、熊本大学と順天堂大学、琉球大学、広島大学との共同研究によるものです。

[Source]

Tanigawa, S. et al., 2018. Organoids from Nephrotic Disease-Derived iPSCs Identify Impaired NEPHRIN Localization and Slit Diaphragm Formation in Kidney Podocytes. Stem Cell Reports, 11(3), pp.727–740. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.stemcr.2018.08.003.


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