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心室内圧較差と渦流は心機能障害の指標となる可能性

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

Graphs of the vorticity during the cardiac cycle in a dog under various conditions

image: Graphs of the vorticity during the cardiac cycle in a dog under various conditions view more 

Credit: FIGURE ADAPTED FROM Am J Physiol Heart Circ Physiol 316: H882-H888, 2019. Copyright � 2019 the American Physiological Society

東京農工大学の田中准教授の研究グループは、帝京科学大学と順天堂大学と動物実験の共同研究を行い、左右の心室内での渦流と圧較差との間に密接な関係があることを見出した。この新たな知見は、心不全を引き起こす心血管機能障害に対する新たなマーカー開発に有用な情報をもたらすだろう。

この成果は、2019年4月にthe American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiologyに発表された。

心臓の拍動サイクルには2つの段階がある。最初の段階である拡張期には、心室と呼ばれる左右の下室が弛緩して拡張し、心房と呼ばれる左右の上室から心室に血液が流れ込む。心室が血液で満たされると、第2段階である収縮期に移行する。収縮期には心室壁の筋肉が収縮し、左心室の血液は大動脈(酸素化血液を体に運ぶ主動脈)へ、右心室の血液は肺動脈(脱酸素化血液を肺に戻す)へ押し出される。

拡張機能障害は、この拡張期の機能効率が悪くなる心疾患であり、特に高齢の飼育動物やヒトでよくみられる。心室壁の筋肉が肥厚して硬くなり、弾力性を失い、適切な弛緩や拡張ができなくなる。その結果、心室に満たすことができる血液量が少なくなる。これにより体の他の部位に血液が貯留するようになる。

汲み上げられた血液が次の拍動で心室内に流入しようとする際、心室が適切に拡張できないため流入してくる全ての血液を収容することができず、このような血流の制限により、心室内の圧力が上昇する。拡張機能障害では、肺から戻ってきた酸素化血液が左心室に流入する際に圧力が上昇するのが特徴である。行き場を失った過剰な血液は肺の周辺の血管や心臓に戻る血管の中にも貯留し、圧力が上昇する(肺うっ血および全身性うっ血)。

肺うっ血の場合、漿液が血管膜を通って肺胞(空気交換を可能にする小さな空気嚢)に漏出することがあり、結果として肺水腫(血液の酸素化が障害され呼吸困難を呈し、重症の場合には致死性の拡張不全となる病態)になる。

血液が左心房から左心室へと流れる際に、渦流という回旋するまとまった流れを形成する。流体力学的には、回転する渦は、直線的で安定した流体よりも効率的な流れであると考えられており、この流れの存在により、拡張期の左心室に血液を充満させることが可能となる。十分な吸引力を持つ健康な心臓の心室内圧較差は一般的に大きく、一方、拡張機能障害を有する心臓の心室内圧較差は小さい。

これまでの研究では、拡張期の渦度、すなわち心室内における血液の流体力学を、拡張機能の指標として用いることができることが示唆されていた。しかし、心室内圧較差と拡張期の渦度との間の関連性は明らかになっていない。心室内圧較差は渦の形成と関連があり、また、心不全と関連している心室弛緩の尺度として渦流を用いることができると考えられている。

本研究では、健康な麻酔イヌ6例をモニターし、非侵襲的イメージング技術を用いて心室内の液体力学を臨床的に評価できるか、また、流体力学的な障害が心不全を引き起こす拡張機能障害の原因となる可能性があるかについて評価した。田中准教授は、「我々は渦と心室内圧較差との間に密接な関連性があること、また、これらが左心室弛緩特性に関する新しいマーカーになり得ることを示した」と述べた。

研究グループでは、これまでは健康なイヌを用いて心室内圧較差と渦流の関係を評価してきたので、次のステップではネコの症例を用いて心室内を流体力学的に評価する予定である。今回得られた知見は非常に興味深い結果であり、これらの指標を用いて拡張機能障害患者を対象としたさらなる研究を行う価値があると著者らは述べている。

研究に関する問い合わせ 東京農工大学大学院農学研究院 動物生命科学部門 准教授 田中 綾(たなか りょう) E-mail:fu0253@go.tuat.ac.jp

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