News Release

海水が導線に!? 海の中のワイヤレス給電

スマート漁業の実現に向けた水中に常駐できるドローンを目指して

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Wireless power transfer to underwater

image: Underwater drone (top left), power supply station (bottom left), drone parked on the power supply station installed on the ocean floor for battery charging (right) view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 田村昌也准教授、村井宏輔氏(博士前期課程修了)らの研究チームが、4枚の超薄型平板電極を用いた送受電器で海水中でのワイヤレス給電と情報通信に成功しました。ワイヤレス給電の世界では、海水は非常に損失の大きな誘電体としてふるまうため、電界結合方式では実現が難しく、磁界結合方式でしかワイヤレス給電は実現できないとされてきました。今回、海水の高周波特性に注目して第3の方式となる導電性結合方式を考案し、高効率給電を実現する送受電器を開発しました。

<詳細>

日本の漁業従事者は年々減少しており、高齢化が進んでいます。その要因に一つとして人の手に頼らざるを得ない高負荷作業の過多が挙げられます。これを改善するため、養殖網の清掃ロボットなど自動化が進められています。今後は、水質や環境管理、魚の生育チェックなどすべてをロボットで管理できるよう海中に常駐するロボット、いわゆる水中ドローンの開発が期待されます。しかし、ドローンはバッテリー駆動のため、充電のために何度も海中から引き上げ、充電して潜航させるという作業を繰り返す必要があります。また、水中で収集したデータも同時に回収する必要があります。そこで、給電ステーションを介した海中でのワイヤレス給電と情報通信の技術開発がキーとなります。特に、このようなドローンは軽量であるため、重量の増加や体積の増加が浮力制御や姿勢制御を困難にさせるため、軽量かつ省スペースで実現できる技術が必須となります。そこで、田村昌也准教授らの研究チームは海中でも高効率ワイヤレス給電を実現する新方式の送受電器を開発しました。

ワイヤレス給電の効率は送受電器間の結合係数kと周辺環境の影響も含めた送受電器の損失を表すQ値の積であるkQ積に依存します。kは1に近いほど、Q値は高いほど効率が向上します。しかし、海水のような高い導電性をもつ誘電体では高周波電流が流れてしまい、kとQ値に切り分けて議論することは困難です。ただkQ積が高いほど効率が向上するという原理は不変であることから、kQ積という視点で海水の導電性に注目した等価回路から効率を向上させるためのキーとなるパラメータを明らかにしました。そこからkQ積が最大値を示す設計理論を確立し、送受電器の設計を行いました。これにより広帯域にわたって送電距離2 cmで94.5%、15 cmで85%以上のRF-RF給電効率を実現しました。1 kWの電力を送電距離2 cmで送電しても効率90%以上を維持できます。さらに、広帯域で高効率を維持できるため高速通信も実現できます。開発した送受電器を用いてキャパシタを充電し、その充電電力で駆動したカメラモジュールから動画を同じ送受電器を介してリアルタイムで通信することにも成功しました。今回の通信速度は約90Mbpsですが、さらなる高速化も可能です。給電ステーションに着底することを想定して行った小型水中ドローンへの給電・通信実験にも成功しました。このときのドローンに搭載する受電器と電力系回路を合わせた重量は約270 gと非常に軽量です。

<開発秘話>

研究チームのリーダーである田村昌也准教授は、「イオンが豊富な海水は、低損失で高周波電流が流れると予想していました。淡水でのワイヤレス給電を研究している際に、水の塩分濃度が変化すると給電効率がどのように変化するかを解析していたとき、濃度が上昇すると数%まで低下した効率が、ある濃度から回復して20%くらいの値を保つという現象に出会いました。これが予想を裏付ける証拠だと確信し、この結果を詳しく調べて明らかにした送受電器の等価回路から動作理論を構築しました。そして、その理論をもとに送受電器構造を設計し、試作・測定を行ったところ、海水中で給電効率90%以上という結果を得ました。大きな電力を加えた際に海水下で起きる電極表面の化学変化を防ぐため、絶縁コーティングを施した状態でも90%以上の効率を実現できたことに驚きました。」

<今後の展望>

研究チームは、本研究成果により水中ドローンの設計を大幅に変更することなく海水中での通信・充電が可能となり、運用効率の飛躍的向上に貢献できると考えています。開発した送受電器は非常にシンプル、かつ軽量であるため、水中ドローンの重量増加を最小限に抑えることができます。最終的には、陸上ですべてを管理できる水中ドローンシステムの開発に貢献していきたいと考えています。本研究成果は今後も論文や学会等で発表していく予定です。

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<論文情報>

Masaya Tamura, Kousuke Murai, Marimo Matsumoto, “Design of Conductive Coupler for Underwater Wireless Power and Data Transfer,” IEEE Transaction on Microwave Theory and Techniques, vol. 69, no. 1, pp.1161-1175, Jan. 2021, doi: 10.1109/TMTT.2020.3041245.

本研究成果の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(18K04262)の支援のもとで行われました。


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