主要なヒトの癌のほとんど未知のクロマチンランドスケープをマッピングすることで、さまざまな癌関連遺伝子の制御に関する新しい見識が得られた。この研究は、さまざまな癌タイプの制御ダイナミクスを理解しようとしている研究者に貴重なリソースを提供し、いつの日か、それぞれの患者に有効な治療に向けた癌患者集団の分類に役立つ可能性がある。癌は、多種多様な腫瘍、臨床特性、患者転帰、及び治療効果を特徴とする非常に多様な疾患の集合体である。The Cancer Genome Atlas(TCGA)は、大規模なゲノム・分子解析により、癌の原因となる多数の遺伝子変異を明らかにした。しかし、公表されているTCGAデータはヒト癌に関するゲノム情報の豊富なコレクションであるが、遺伝子が存在するDNA-タンパク質複合体(クロマチンと呼ばれている物質)のより系統的な検討を行えば、癌の予後や治療に影響することでさまざまな癌関連遺伝子に影響を及ぼしているスイッチを明らかにするうえで役立つ可能性がある。今回の新しい研究に関わっている研究者を含むスタンフォード大の研究者が開発した、アクセシブルなクロマチンの研究における最近の進歩は、ATAC-seqとして知られている。この方法では、少量の試料で包括的なクロマチンプロファイリングが可能である。ATAC-seqは酵素を利用してクロマチンのアクセシブルなセグメントを明らかにし、それによって有効なDNA制御要素を明らかにする。今回、M. Ryan Corcesらは、ATAC-seqにより、TCGAで得られた410個の試料から、23種類の主要なヒト癌のクロマチンのアクセシビリティーランドスケープをマッピングした。Corcesらは、500,000個以上のアクセシブルなDNA要素を同定することで、癌ゲノムの既知のDNA制御要素の範囲を大きく拡大した。Corcesらの研究は、癌に関する遺伝性のリスク座位について新しい見識を提供している。この研究結果は、癌の有効な診断と治療を進歩させるために、癌のノンコーディングゲノミクスの理解に向けた系統的アプローチが必要であることも示唆している。関連したPerspectiveで、Jussi Taipaleは、「データセットの規模とそのマルチオミックス的性質を考慮すると、新たな発見がなされる可能性は大きい」と述べている。
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