【発表のポイント】
観賞魚としても有名なグッピーは、オスの派手な体色およびオスの体色に対するメスの好みに非常に顕著な種内多様性があることが知られている。
さらにグッピーは色の見え方(色覚)にも個体差があり、色覚の多様性がメスの好みの多様性をもたらしている可能性が指摘されている。しかし、色覚の多様性が生じるメカニズムや色覚とメスの行動の関係はこれまで明確になっていない。
本研究は色覚に関わるオプシン遺伝子に着目し、オプシン遺伝子の発現量が、遺伝的変異と生育時の光環境の影響の双方により異なることを示した。
オプシン遺伝子の発現量は、行動レベルで個体の光感受性に影響しており、さらにオスのオレンジ色に対するメスの好みにも影響することが行動レベルで実証された。
本研究の成果は、メスの好みと感覚の特性の進化的な関係性について重要な知見を提供するとともに、野外における表現型多様性の維持メカニズムの解明に向けても大きな足がかりとなる可能性がある。
【研究の背景と概要】
多くの動物において、一方の性(主にオス)のみが鮮やかな体色や長い尾のような派手な形質をもつ例が知られています。こうした派手な形質は、交配相手であるもう一方の性(主にメス)によって好まれ、選択されることで進化してきました。では、そもそもなぜメスは特定の形質をもつオスを好むように進化してきたのか、この問いの解明は、古くから進化生物学の中心テーマであり続けています。
観賞用としても人気の高い中南米原産の小型魚グッピーは、オスのみが派手で複雑な体色パターンをもち、メスは交配相手のオスを選ぶ際に、オスの体色パターンに対して特定の好みを示すことが明らかになっています。また、オスの体色パターンやそれに対するメスの好みには、種内で多様性があることが知られています。さらに興味深いことに、グッピーにおいては色の見え方(色覚)にも個体差があることが知られています。これらのことから、色覚の違いがオスの体色に対するメスの好みに影響を与え、色覚とメスの好み、さらにオスの体色の多様性が互いに関わり合って進化してきた可能性が指摘されています。しかしながら、どのような遺伝的メカニズムによって色覚の違いが生じているのか、また色覚の違いが実際にメスの好みに影響を与えるのかは実証されておらず、色覚とメスの好みの関係性に関しては仮説の域を出ていませんでした。
色覚は、網膜上に存在する錐体視細胞が異なる波長の光を感受することによって実現します。本研究では、錐体細胞で発現する光センサーである錐体オプシンに着目し、遺伝的変異および発育時の光環境の違いの双方によって生じる錐体オプシン遺伝子の発現量の多様性が多様な色覚をもたらしていることを示しました。さらに、オプシン遺伝子発現量の違いとそれに応じた色覚の違いは、グッピーのオスのオレンジ色に対するメスの好みの違いに関わることを明らかにしました。
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Journal
Proceedings of the National Academy of Sciences