News Release

筋肉に一体化できる‘Kirigami’エレクトロニクス

義手やロボットアームを制御するヒューマン・マシン・インタフェース技術への応用に向けて

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

ドーナツ型切り紙構造

image: 変形前の平面ドーナツ形状(左)変形後の立体円筒形状(右) view more 

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豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系とエレクトロニクス先端融合研究所の研究チームは、ドーナツ型の切り紙構造を用いた伸縮性筋電位計測用電極を開発しました。本電極では従来の切り紙型神経電極の課題であった、筋肉などの変形する生体組織からの信号を計測する際の電極の位置ずれを低減しました。これにより筋肉からの詳細で安定した信号計測が可能となり、将来的な切断患者の残存筋を用いた義手やロボットアームを制御する技術(ヒューマン・マシン・インタフェース)への応用が期待されます。

筋肉の活動は脳や脊髄から伝えられた電気信号により制御され、その信号は筋電図と呼ばれます。事故などによる切断患者では、切断された部位の機能を失いますが、切断部には筋肉が残されています。この残された筋肉である残存筋を用いて、その電気的な活動を読み取ることで義手などを動かし、失われた機能を回復する技術の開発が行われています。

本研究チームが2017年に開発した切り紙構造を用いた非常に高い伸縮性を持つ神経電極は、マウスの脳や心臓からの信号計測の可能性を示しました(Morikawa et al., 2017 10.1002/adhm.201701100)。この切り紙構造による高い伸縮性は生体組織の持つ柔らかさに近く、一般的に用いられる柔軟性材料やゴムによる柔軟性や伸縮性を持った電極に対して生体へ与える負担を軽減します。しかし、これまでの切り紙構造を用いた電極では、大きな変形を示す生体組織(例えば心臓や筋肉など)に対して、電極の位置ずれやまた電極自身が組織から剥がれる問題がありました。

これらの問題を解決するため、研究チームは新たに円周状の“ドーナツ型”の切り紙構造を提案し、筋肉からの安定的で正確な筋電位の計測を可能とする伸縮性電極を開発しました。

ドーナツ型の切り紙構造は、先ず平面的なドーナツ型のフィルムとして製作され、立体的な円筒形状へと変形させることができます。この伸縮性を持った円筒形状のフィルム電極は生体の円形状を持った様々な生体組織(腕や脚、指、腹部、心臓などの臓器)へ、電極デバイスの高い密着性を生体の動きを阻害することなく実現する事ができます。

本デバイスを用いた実験ではマウスの後脚の筋肉より、異なる脚の動きに対応する筋電位の識別が可能であることも確認されました。これらの結果は、切断患者の残存筋を用いて義手やロボットアームを制御するヒューマン・マシン・インタフェース技術への応用が期待されます。

「以前に開発したシート型の切り紙構造を用いた電極では、マウスの心臓を対象にした実験を行ったときに、各々の電極が十分に心臓の動きに追従できませんでした。この様子を見て、心臓のような大きな変形を示す生体組織に適した電極とはどのようなものかと考えたところからドーナツ型の切り紙構造が生まれました。電極の試作では、設計した切り紙構造を紙に印刷してカッターナイフで切って確認しました。実際に半導体微細加工技術を用いて製作するマイクロスケールの小さなドーナツ型デバイスが、紙で確認した変形と同様に変形するのか半信半疑でしたが、結果として製作したデバイスは予想した通りの変形を示しました。」と筆頭著者である博士後期課程の森川雄介は説明します。

今回提案したドーナツ型切り紙構造を利用した伸縮性電極には、機械的な強度や信号の解像度の点でまだ課題があります。また、生体組織への埋め込みにより、生体への長期的な影響を確認すると共に、計測された筋肉の活動から、実際にロボット等の制御を行いたいと考えています。今後は、切断患者の生活の向上に役立つデバイスの実現を目指しています。

<論文情報>

Yusuke Morikawa Shota Yamagiwa Hirohito Sawahata Rika Numano Kowa Koida Takeshi Kawano (2019). Donut‐Shaped Stretchable Kirigami: Enabling Electronics to Integrate with the Deformable Muscle. Advanced Healthcare Materials, 10.1002/adhm.201900939.

本研究は、文部科学省科学研究費(基盤研究(B)、若手研究(A)、新学術領域研究(研究領域提案型))、及び NEDO 次世代人工知能・ロボット中核技術開発、文部科学省プログラム「超大規模脳情報を高度に技術するブレイン情報アーキテクトの育成」、公益財団法人武田科学振興財団、豊田理研スカラーの助成によって実施されました。


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