2025年4月8日、文部科学省は、「科学技術分野の文部科学大臣表彰」の令和7年度受賞者を発表しました。本表彰は、科学技術に関する研究開発や理解増進において顕著な成果を収めた個人を称えるものです。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の根本香絵教授(量子情報科学・技術ユニット)が、独創的な研究又は発明を行った、個人又はグループを対象とする科学技術賞(研究部門)を受賞しました。根本教授の量子コンピュータアーキテクチャ理論の研究が、量子コンピュータ科学の創成に大きく寄与したことが評価されました。
表彰式は4月15日に文部科学省で開催される予定です。なお、昨年はOISTの島袋静香博士が同賞の科学技術振興部門を受賞しています。
根本教授の研究は、量子コンピュータの社会実装に向けた理論的基盤を築くものです。量子コンピュータは、従来のコンピュータでは解決が困難だった問題に対して、新たな可能性をもたらします。
根本教授は、量子コンピュータのスケール性(拡張可能性)と実現可能性を理論的に解明し、まず光や超伝導などを具体的な量子ビットを用いて、スケール性のある量子コンピュータの実装方法を示しました。そして、量子コンピュータの実現に向けて、量子コンピュータアーキテクチャとモジュール化の概念を初めて導入し、フォールトトレラント(誤り耐性のある)量子コンピュータの設計を具体化しました。さらに、量子コンピュータを構成する技術レイヤを定義し、それらを統合したシステムの動作や性能を定量的に評価することで、量子ミドルウェア(量子コンピュータを効率的に動かす中間ソフトウェア)の基礎を確立しました。
これら一連の研究によって、量子コンピュータ開発の理論的な土台が確立され、実装研究の加速に大きく貢献しています。
根本香絵教授は、2022年に設立され、国の量子技術イノベーション拠点の一つを担うOIST量子技術センターのセンター長を務めるほか、国立情報学研究所(NII)の特任教授、量子情報国際研究センター長、日仏情報学連携研究拠点(JFLI)の共同所長も兼任しています。研究活動に加え、文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)人材育成プログラム」事業の下での量子技術高等教育拠点の代表として、日本における量子コンピュータ人材の育成にも力を注ぎ、教育プログラムの開発と実践を通じて次世代リーダーの育成にも貢献しています。これまでの功績は国内外で高く評価されており、米国物理学会と英国物理学会のフェローに選出され、2022年にはフランス共和国政府より国家功労勲章を授与されました。
根本香絵教授は受賞に際し次のようにコメントしています。「これまで取り組んできた量子分野の基礎研究の成果を評価いただけたことを大変嬉しく、一緒に研究をしてきた共同研究者の皆さまと日々の研究を支えてくださった皆さまに深く感謝申し上げます。量子コンピュータをはじめとした量子技術には、最近大きな注目が集まっています。この私たちがいる現在は、これら量子技術の進歩が量子科学の深化を促し、また、量子科学の新しい理解が量子技術の発展を可能にするという、科学史上でも稀なエキサイティングな時代です。量子技術はまだまだ始まったばかりで、これからさらに量子がもつ数多くの新しい可能性が登場してくることでしょう。そして、その源泉は基礎研究です。まさに『蒔かぬ種は生えぬ』、多くの種を蒔き、大事に育てることこそが、大きく、意義深い科学技術の進歩への近道と思います。これからも、『種を蒔いて、大事に育て、大きく収穫する』、その量子科学技術の進歩の過程のどこかに貢献できるよう努力を続けたいと思います。」
OISTのカリン・マルキデス学長兼理事長は次のようにコメントを寄せています。「根本教授の研究は、量子コンピュータの未来を切り開くものであり、その貢献は計り知れません。OISTはオープンイノベーションを推進し、日本と世界の研究をつなぐ架け橋となり、最先端の知見と技術を結集し深化させることを目指しています。根本教授が率いる量子技術センターには、国際的に卓越した量子研究者が集まり、技術革新の源泉となるような、探求心に基づく量子研究を行っています。根本教授の受賞をOISTの仲間として誇りに思います。今後もこの分野を先導する根本教授のリーダーシップに期待しています。」