KATRIN(カールスルーエ・トリチウム・ニュートリノ)実験を行った研究者らの報告によると、ニュートリノ質量をこれまでで最も正確に測定したところ、電子質量の100万分に満たない、0.45電子ボルト(eV)という上限値が得られたという。この研究結果は、宇宙で最も検出しにくい素粒子のひとつに対する制約を強めるとともに、標準模型の範囲外まで物理学の境界を押し広げるものである。電気的に中性の素粒子であるニュートリノは、宇宙に最も豊富に存在する粒子であり、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノという3つのタイプ、すなわち「フレーバー」がある。これらのフレーバーは振動する。つまり、個々のニュートリノは、伝搬していく過程で別のタイプに変わる。これは、ニュートリノが質量をもつという有力な証拠であり、質量はないとする標準模型の初期想定と矛盾する。しかし、その正確な質量は、依然として素粒子物理学の大きな謎のひとつである。今回、Max AkerとKATRINコラボレーションは、KATRIN実験による最初の5つの測定結果を発表している。KATRIN実験では、トリチウムのβ崩壊を分析することによってニュートリノの質量を割り出した。この崩壊中に、中性子は陽子に変わり、電子と反電子ニュートリノ(ニュートリノの反粒子)を放出する。放出された電子と反電子ニュートリノの間の全崩壊エネルギーの分布を分析することにより、ニュートリノの質量を推測できる。KATRINコラボレーションは、2019年から2021年までの259日間に、約3600万個の電子に対してエネルギーを測定した。これは、過去の測定で得られたデータセットの6倍の規模である。この研究結果は、有効電子ニュートリノ質量の最も厳密な実験室ベースの上限を確立し、90%の信頼水準で0.45eV未満であるとした。この結果は、ニュートリノ質量の上限を改善した3度目のものであり、以前の上限よりも2倍改善されている。関連するPerspectiveではLoredana Gastaldoが、「KATRIN実験のニュートリノ質量測定は、データ収集が1000日に達し次第、2025年に終了することになっている」と述べている。「この壮大なプロジェクトから得られた全データセットを分析することにより、90%の信頼水準で0.3eVという予測値に近い有効電子ニュートリノ質量を推定することが可能になるだろう。」
Journal
Science
Article Title
Direct neutrino-mass measurement based on 259 days of KATRIN data
Article Publication Date
11-Apr-2025