News Release

私たちはどのように団結して行動するのか?―サッカーチームの行動パターンから学ぶ

サッカーチームという選手の集まりが、例えば一匹のリスと同様に行動することが初めて明らかに。集団行動に関する新たな視点を提供。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

レヴィウォークを示すサッカーチーム

image: 両チームの全選手の軌跡は半透明の点線で、各チームの重心の軌跡は実線で示した。試合開始から5分間を示している。赤がチーム1、青がチーム2。 view more 

Credit: シプロフ他(2024)

餌を探すアホウドリ、株式市場の変動、風に舞う種子の分散パターン・・・これらに共通点を見出せるでしょうか?

実は、これらの共通点は、「レヴィウォーク(Lévy walk)」と呼ばれる行動パターンを示すことにあります。レヴィウォークは、生物が移動するときに起こるパターンで、短い局所的な動きが頻繁に起こり、時折、長い直線移動が現れるという特徴があります。生物にとって、資源が得難い場合に、周囲の資源を利用しつつ新たな機会を探索するために最適な戦略として知られています。

もともとは液体中を漂う粒子の動きとして報告されたレヴィウォークは、冷たい原子の運動から細菌の群れまで、非常に幅広い現象を正確に説明することが分かっています。そしてこの度、学術誌『Complexity』で発表された新たな研究で、「競争する生物の集団」であるサッカーチームの動きに、初めてレヴィウォークが発見されました。「サッカーは、希少な資源を奪い合うゲームです。勝利するためには、たった一つのボールを保持する必要があります」と、本研究の責任著者で、OIST身体性認知科学ユニットを率いるトム・フロース准教授は述べています。「そのため、各選手が、『探索』と『利用』のバランスを取りながら動き、同じ場所に長くとどまらないようにして、ボールを獲得できる可能性を高めるのは理にかなっています。個々の選手だけでなく、チーム全体としても全く同じ動き方をしていることを発見しました。」

液体中の粒子から、サッカー競技場の選手まで

レヴィウォークの概念は、フランスの数学者ポール・レヴィが提唱したもので、後にブノワ・マンデルブロがランダムな動きを説明する際に応用し、裾の長い確率分布の統計モデルを開発しました。レヴィウォークは、物理学の分野で初めて実用的な応用例が見出され、研究者たちは乱流における粒子の動きをモデル化するためにこれを使用し、レヴィウォークのパターンに従う粒子は超拡散的であることを発見しました。つまり、時折起こる長い直線移動により、粒子はより速く広がることを意味します。この概念は、1996年に生物学の分野で飛躍的な進歩を遂げました。餌を求めてさまようアホウドリがレヴィウォークを示すことが実証されたのです。

OISTの研究チームは、試合中の選手とボールの位置を1センチ単位の精度で正確に記録した、日本のプロサッカーリーグであるJリーグの試合のデータを使用しました。「統計的検定により、選手たちがボールを追いかけているときに、レヴィウォークを示していることが分かりました。これは、動物が餌を探して歩き回る様子とよく似ています。ボールを手に入れた途端、レヴィウォークから逸脱しますが、ボールとの接触という制約により、逸脱したと考えられます。 チームの重心(すべての選手の平均ポジション)でも同様の動きが見られ、ボールを奪取しようとする際には、チームが一つの行為者として行動していることが示唆されます」と、論文の筆頭著者で、同ユニットの博士課程学生であるイバン・シプロフさんは説明します。

選手とチームの動きがレヴィウォークを示すかどうかの検証に加え、研究チームは、選手がレヴィウォークを示す度合いと、選手とボールやチーム重心までの平均距離との間に強い相関関係があることも発見しました。レヴィウォークのパターンが顕著な選手は、総じてボールとチームの重心の両方に近いことが分かりました。「レヴィウォークが優れたサッカー選手の特徴であると結論付けることはできませんが、レヴィウォークの動きを強く示す選手はより活発で、一般的にボールにより近く、チームのダイナミクスにより貢献していることが示唆されています」とシプロフさんは述べます。レヴィウォークの程度の違いは、選手の役割の違いを明らかにする手掛かりにもなります。例えば、ゴールキーパーの動きのパターンや役割は、他の選手とは大きく異なります。

チームのために

サッカー選手個人だけでなく、チーム全体も探索と利用のバランスを最適化するように行動していることを発見したことで、研究チームはレヴィウォークの概念を実証し、私たち人間や群れで狩りを行う動物たちが、共通の目標を達成するためにどのように協力し合うかについての洞察を提供しました。「チーム結束の根本的なメカニズムについてはまだ調査していませんが、これまでの研究では、2人で行動を共にする場合、間脳の同期が増加することが多いと示唆されています。つまり、2人の人間が本質的に心をリンクさせて、共有した活動を行うことができるという発見です」とフロース准教授は説明します。

個人が集まり、集団でレヴィウォークを行うという新たな発見は、同期性の証拠であり、潜在的には、私たちの認知は自分自身を超えて、統合された単一の主体として行動する集団的な自己へと投影できる可能性を示唆しています。フロース准教授は次のように述べています。「サッカー選手たちが全員、全く同じ行動を取ることはあり得ません。なぜなら、それは非常に非効率的な戦術だからです。その代わり、選手たちは試合に応じて各自の行動を互いに補い、チームメイトの個々の行動からチームとしての行動が生まれるのです。」

この集団行動は、チームスポーツがなぜこれほどまでに人気なのかという理由を示唆しているのかもしれません。5000万年前のウニの化石の跡や現代の狩猟採集民の移動パターンでも観察されているレヴィウォークの普遍性を考えると、サッカーのようなゲームに魅了されるのは、そのゲームが非常に古い採集パターンを再現しているからかもしれません。個々人が行動を調整し、適応させ、共通の目標を追求する統一された行為者として行動する能力は、私たちが協力と効率の基本原則に原始的なレベルで共鳴していることを示唆しているのかもしれません。

本研究は、粒子、生物に加え、集団行動でもレヴィウォークが広く見られることを明らかにしただけでなく、従来の単一の脳を中心とした認知の考え方に疑問を投げかけ、集団としてのダイナミクスを理解するための新たな道筋を開くものです。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.