新しい研究の報告によると、量子アニーリングプロセッサは、量子スピンダイナミクスの実世界における科学的シミュレーションを解く際に、古典的なスーパーコンピュータよりも優れているという。このプロセッサは、従来の計算法の能力をはるかに超える成果を出しており、これに匹敵する成果を従来の計算法で出すには、途方もない時間とエネルギーが必要となる。今回の研究結果は、これまで方法の改善によって量子優位性の主張を抑えてきた、古典的コンピューティングに対する挑戦といえる。ごく最近になって、量子コンピュータは大きな期待に応えられるようになり、光子系、中性原子系、超伝導系といった多様なアーキテクチャを備えた量子処理ユニット(QPU)のおかげで、複雑な問題の解決において最強のスーパーコンピュータをも上回り始めている。しかし、現在のQPU技術が、特定のタスク(乱数生成など)において古典的方法よりも優れていることは広く受け入れられている一方で、ハードウェアが不完全なせいで、実際の科学的応用において古典的計算に対する量子プロセッサの優位性は抑えられており、量子超越性の明らかな事例を示すのは難しい。今回、Andrew Kingらは、より複雑な問題である横磁場イジングモデル(TFIM)の連続時間量子動力学をシミュレーションした場合の、超伝導量子アニーリング(QA)プロセッサの性能を評価した。KingらはQPUの性能を評価するため、その結果と、強力な古典的スーパーコンピュータで実行された高精度の行列積状態(MPS)シミュレーションとを比較し、さらにテンソルネットワークやニューラルネットワークといった高度な古典的手法を用いて、QPUの精度に合わせて量子動力学を近似するコストを推定した。その結果によると、量子プロセッサは、イジングモデルのさまざまなトポロジーにおいて、古典的なMPSシミュレーションよりも性能が優れていた。さらに、古典的シミュレーションに必要な資源を推定したところ、厳しい制約があることが明らかになった。著者らの推定によると、MPSの方法がQPUの性能に匹敵するためには、スーパーコンピュータによる数百万年間の計算と世界の年間消費量を超える電力など、現実的な実現可能性をはるかに上回る計算資源が必要になるという。「このように古典的シミュレーションが実行不可能であるがゆえに、最適化とAIにおける量子優位性への道が開け、他の方法では解決できないであろう科学的問題や、古典的な方法では不可能であろう応用に対処できるようになる」と、Kingらは述べている。
Journal
Science
Article Title
Beyond-classical computation in quantum simulation
Article Publication Date
12-Mar-2025