News Release

中国大陸由来の寄生虫、利根川水系の一部に侵入

特定外来生物を経由して在来魚へ感染する生活史を明らかに

Peer-Reviewed Publication

Toho University

image: 

Life cycle of the introduced trematode Dollfustrema invadens in Japan. Illustration: Iwata Sho, Makito Hayashi and Tsukasa Waki

view more 

Credit: Illustration: Iwata Sho, Makito Hayashi and Tsukasa Waki

東邦大学、水産研究・教育機構水産技術研究所、日本大学、地球・人間環境フォーラム、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の研究グループは、新たな外来種の寄生虫が、利根川水系で在来魚などに寄生していることを明らかにしました。感染源は特定外来生物カワヒバリガイで、ブルーギルやチャネルキャットフィッシュ(特定外来生物)などの外来魚もこの寄生虫の生活史に寄与していることが分かりました。

本研究は、「Journal of Helminthology」に2025年1月20日に掲載されました。

 

発表者名

齊藤 佳希(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程1年)
岩田 翔(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2023年度卒)
林 蒔人(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2023年度卒)
新田 理人(水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員、研究当時:神戸大学JSPS特別研究員)
石川 孝典(日本大学生物資源科学部 客員研究員)
萩原 富司(地球・人間環境フォーラム つくば事務所長)
池澤 広美(ミュージアムパーク 茨城県自然博物館)
間野 伸宏(日本大学生物資源科学部 准教授)
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)

 

発表のポイント

  • 利根川水系に中国大陸原産の腹口吸虫が新たに侵入し、日本在来の淡水魚に感染していることを発見しました。この寄生虫は中国大陸から報告されていましたが、有効な学名が無かったことから、種の学名として「ドルフス腹口吸虫(Dollfustrema invadens)」をつけました。利根川水系には既に外来種の寄生虫「尾崎腹口吸虫(Prosorhynchoides ozakii)」が侵入していますが、ドルフス腹口吸虫は本水系2種目の侵入例になります。
  • ドルフス腹口吸虫はカワヒバリガイ(特定外来生物)を感染源とし、在来の淡水魚(ヌマチチブ・トウヨシノボリ)や、外来種(国内*・国外も含む)の淡水魚に寄生することが分かりました。在来魚の寄生部位である鰭やその基部には、黄色い虫体が確認されました。チャネルキャットフィッシュやブルーギル(いずれも特定外来生物)の感染個体には虫体数が特に多く、この寄生虫の重要な宿主の一つと考えられました。したがって、これら3種の特定外来生物によってこの寄生虫の生活史が支えられ、その中で在来魚にも感染が引き起こされていると考えられます。
  • 利根川水系への本寄生虫の侵入は2020年ごろと推定されましたが、具体的な移入経路は不明です。なお、本寄生虫のヒトへの寄生報告はありません。

 

発表内容

 一般的な動植物と同様に、海外から日本に侵入した寄生虫も外来種となります。外来種の寄生虫(外来寄生虫)は、宿主が海外から持ち込まれる際に一緒に侵入することが多いと考えられています。日本は、養殖や食用目的で野生生物を海外から輸入しており、それらと一緒に外来寄生虫が侵入し、在来の野生生物に感染していることが想定されます。研究グループはこれまで、以前の研究** において日本のヘビ類や在来魚から外来寄生虫を報告してきましたが、寄生虫は体内におり、宿主の外見では分からないことが多いため、外来寄生虫の日本への侵入状況やその経緯は十分に把握できていないのが現状です。そのような中で、外来寄生虫の侵入状況を知り、その分布や感染経路を把握することは、その寄生虫の防除のための重要な基礎情報となります。また、侵入経緯の推定は、次の外来寄生虫の侵入を未然に防ぐことを考える際の情報源になります。

 かつて日本には、淡水に生息する腹口吸虫(扁形動物の寄生虫の一部グループ)はいませんでしたが、1999年には淀川水系に侵入し定着したことが知られています。この侵入は、カワヒバリガイという中国大陸の淡水貝がシジミ種苗に紛れて放流されたことによると考えられています。霞ケ浦をはじめとした利根川水系でも、尾崎腹口吸虫という腹口吸虫の仲間が2019年には侵入したことが知られています。2019年から利根川水系で寄生虫調査を行ってきた研究グループは、2022年になってタモロコなどの淡水魚から見慣れない寄生虫が出てくることに気づきました。この寄生虫の成虫の種を形態で調べたところ、日本にはまだ侵入報告のない、中国大陸原産の腹口吸虫の仲間であることが分かりました。この吸虫に有効な学名が無かったことから、新種としてDollfustrema invadensという学名を与えることになりました。種小名の”invadens ”は、この寄生虫が日本に侵入した(invaded)外来種であることに因んだものです。本種の和名はドルフス腹口吸虫としました。

 続いて研究グループは、ドルフス腹口吸虫の生活史を明らかにするため、カワヒバリガイと淡水魚を採集して吸虫の幼虫を探しました。幼虫は成虫と形が大きく違うことが予想されたので、成虫からDNAの塩基配列を読み取っておき、気になる腹口吸虫の幼虫が得られた時にそれと比較していきました(DNAバーコード:核28S rDNAやITSなどの部分配列)。この調査の結果、2021年のサンプルから本吸虫が出現していることが分かりました。さらに、利根川水系での生活史も明らかとなりました(図1)。まず、スポロシスト幼虫がカワヒバリガイに寄生します。スポロシスト幼虫は、セルカリア幼虫という感染ステージを水中に放出します。水中のセルカリア幼虫は、在来魚であるヌマチチブ、ヨシノボリ類や、外来種であるブルーギル(特定外来生物)などに経皮感染し、その魚の組織でメタセルカリア幼虫に発達します。この幼虫はしばらく経つと、そのまま成虫に成長していきます。さらに、これらの感染魚がチャネルキャットフィッシュに食べられても、その腸内で成虫になることが分かりました。これらの成虫は産卵し、水中へ放出された卵は再びカワヒバリガイに感染します。この生活史は、利根川水系の多くの外来種によって成り立っています。特にスポロシスト幼虫の宿主は、東アジア~東南アジア原産の特定外来生物カワヒバリガイです。さらに、北米原産の特定外来生物であるチャネルキャットフィッシュとブルーギルの感染個体には虫体数が多く、ドルフス腹口吸虫の主要な宿主(スプレッダー)になっていると考えられました。外来寄生虫であるドルフス腹口吸虫は、このようにして特定外来生物の魚貝類によって生活史を支えられ、その中で淡水在来魚への感染が引き起こされていることが分かりました。この寄生虫の病害性はまだ分かっていませんが、外来種の寄生虫は在来種への病害性が高い傾向にあり、在来魚への病害性が高いことが心配されます。

 中国大陸と日本は海で隔てられているため、利根川水系への寄生虫の侵入は、宿主魚貝類の自然移動によるものではなく、人の手で大陸から直接日本に持ち込まれたことによると考えられています。研究グループは、2019年から利根川水系で腹口吸虫の調査をしてきましたが、ドルフス腹口吸虫を初めて見つけたのは2021年でした。したがって、ドルフス腹口吸虫は2020年ごろに日本に侵入して個体群を拡大させてきたと考えられます。この時期には、カワヒバリガイが大陸から利根川水系に直接侵入した記録が見当たらないことから、カワヒバリガイは侵入経路ではないと考えられます。一方この頃に、カラドンコのような淡水魚が大陸から直接持ち込まれた可能性があることから研究グループは、淡水魚の持ち込みが侵入要因の可能性が高いと考えています。実際に、本調査では利根川水系のカラドンコからドルフス腹口吸虫が見つかっています。 

 現在、ドルフス腹口吸虫は利根川水系にしか侵入していません。しかし、カワヒバリガイは日本の河川に広く侵入・定着しています。宿主魚となりえる小型魚や、ブルーギル・チャネルキャットフィッシュも全国的に分布しています。このため、この寄生虫が付いた貝や魚を他の未感染水系に移動・放流してしまうと、その水域で本寄生虫の生活史が速やかに成立して定着する可能性が高いと考えられます。感染を広げないためにも、宿主となり得る動植物を国内の別の場所に放流することは避けるべきなのです。

* 日本の生物で、本来の生息地でない地域に移されたものは、国内外来種と呼ばれます。

** 参考文献)
Makito Hayashi, Yoshihiko Sano, Takanori Ishikawa, Tomiji Hagiwara, Mizuki Sasaki, Minoru Nakao, Misako Urabe, Tsukasa Waki, Invasion of the fish parasite Prosorhynchoides ozakii (Trematoda: Bucephalidae) into Lake Kasumigaura and the surrounding rivers of eastern Japan, Diseases of Aquatic Organisms, 2022, vol 152, p47-60

Harushige Seo, Eriko Ansai, Tetsuya Sase, Takumi Saito, Tsuyoshi Takano, Yosuke Kojima, Tsukasa Waki, Introduction of a snake trematode of the genus Ochetosoma in eastern Japan, Parasitology International, 2024, vol 103,102947

 

発表雑誌

  1. 雑誌名
    「Journal of Helminthology」(2025年1月20日)

    論文タイトル
    Lifecycle of an introduced Dollfustrema (Bucephalidae) trematode in the Tone River system, Japan

    著者
    Yoshiki Saito, Sho Iwata, Makito Hayashi, Masato Nitta, Takanori Ishikawa, Tomiji Hagiwara, Hiromi Ikezawa, Nobuhiro Mano, Tsukasa Waki

    DOI番号
    10.1017/S0022149X24000932

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1017/S0022149X24000932

 

 


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.