News Release

ニューロンたちは気づいていない?

~直径5 µmマイクロニードル電極によるニューロン損傷の低減と長期活動記録~

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

直径5 µmマイクロニードル電極周辺の神経細胞(ニューロン)の観察

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<概要>

 豊橋技術科学大学の次世代半導体・センサ科学研究所(IRES²)の研究グループは,神経細胞(ニューロン)の損傷を最小限に抑え,1年以上にわたり安定した記録を可能にする革新的なデバイス技術を開発しました。本技術は,半導体材料のシリコン(Si)結晶成長技術を用いて,柔軟なフィルム上に形成した直径5 µmのマイクロニードル電極を応用したものです。マウスを用いた実験により,従来の電極技術に比べてニューロンの損傷を大幅に低減し,長期間の安定したニューロン活動記録が可能であることを実証しました。これにより,ニューロン記録における長年の課題を克服しました。

 

<詳細>

 脳組織内のニューロン活動を長期間にわたり記録する技術は,基礎神経科学研究のみならず,臨床応用においても重要な技術です。微細な電極を直接脳組織に刺入する技術は,ニューロン近傍での高い時空間分解能による活動記録が可能となります。しかし,電極の刺入による組織損傷が,長期にわたる安定した記録を困難にしていました。

 本研究では,直径5 µmのマイクロニードル電極を用いることで,この課題に取り組みました。開発した電極をマウスの大脳皮質に埋め込んだところ,その翌日から1年以上にわたり安定したニューロン記録が可能であることが確認されました。また,電極を埋め込んだ脳組織の評価では,電極が埋め込まれていない組織と比較して,大きなニューロン損傷の差は確認されませんでした。

「提案する電極デバイスの利点を実証するために,私は2年以上かけてマウスのニューロン記録実験を行いました。博士課程の学生にとっては長い研究プロジェクトでしたが,研究室のメンバーや指導教員のサポートや励ましもあり続けることができました。また本研究プロジェクトを共に成し遂げてくれたマウスたちにも感謝しています。」と,本研究論文の第一著者である博士課程学生の佐々木陽向さんは語ります。

 

<開発秘話>

 研究チームリーダーである河野剛士教授は,本プロジェクトの背景について次のように説明しています。
「電極の本体となる単結晶シリコンマイクロニードルは,シリコン基板上からのエピタキシャル成長で形成されるため,電極の製作プロセスにはシリコン基板を用いる必要があります。しかし,この硬い材料であるシリコン基板に固定されたマイクロニードル電極は,たとえ直径を5 µm以下に微細化しても,柔らかい脳組織に損傷を与えてしまい,長期にわたる安定したニューロン記録が困難でした。数年前,毎週行っているグループミーティングでこの課題についてメンバーたちと議論していた際,『思い切ってシリコンマイクロニードルの根本を折ってシリコン基板から分離してみてはどう?』という斬新なアイデアが生まれました。私はそのアイデアをホワイトボードに描き,メンバーとその可能性を検討しました。実際に行った実験では,この製作プロセスが予想以上にうまく機能し,結果として柔軟なフィルム基板上にマイクロニードル電極を形成することができました。」

河野教授は続けます。
「提案した電極デバイスを開発した後,佐々木さん(第一著者)がマウスの大脳皮質に電極デバイスを埋め込みました。驚くべきことに,埋め込み時のニューロン損傷が最小限に抑えられ,記録においても1年以上にわたり安定したニューロン活動が得られました。」

 

<今後の展望>

 この新たに開発された電極技術により,従来の電極技術では解決できなかった,埋め込み電極による脳組織や神経システムの損傷といった課題の解決が期待されます。研究チームは今後,本技術を神経科学研究などの分野に応用し,発達障害,アルツハイマー病,てんかんなどの研究に活用することで,これらの分野のさらなる発展に貢献したいと考えています。

 

<外部資金情報>

本研究は,JSPS科学研究費(基盤研究(B)17H03250,基盤研究(A)20H00244,20H00614,国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))19KK0365,新学術領域研究(研究領域提案型)15H05917),科学技術振興機構 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(育成型)JPMJTR23RK,公益財団法人 永井科学技術財団,公益財団法人 武田科学振興財団,科学技術振興機構 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業JPMJF2121の助成を受けたものです。

 

<論文情報>

Hinata Sasaki, Koji Yamashita, Sayaki Shimizu, Kensei Sakamoto, Rika Numano, Kowa Koida, and Takeshi Kawano (2025). A flexible-substrate 5-µm-diameter needle electrode: minimizing neuronal death and enabling year-long neural recording, Advanced Materials Interfaces,

https://doi.org/10.1002/admi.202400974


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