<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系認知神経工学研究室と視覚認知情報学研究室、九州大学大学院芸術工学研究院メディアデザイン部門、ピアス株式会社中央研究所から成る研究チームは、肌の潤い・乾燥に寄与する視覚的手がかりを明らかにするため,どのような画像操作をすると肌の視覚的潤い感が変化するかを心理物理実験によって検証しました。その結果、肌の明るさの高空間周波数成分の強調によって、視覚的潤い感が減少することがわかりました。このような見た目の変化は、皮膚の乾燥による白い筋の出現や毛穴の強調といった、乾燥に伴う皮膚の生理学的現象とよく似ており、これらを手がかりとして肌の乾燥を知覚しているのではないかと考えられます。この研究の結果は、2024年12月17日付でJournal of the Optical Society of America A誌上に発表されました(https://doi.org/10.1364/JOSAA.536898)。
<詳細>
顔の皮膚が血流量などによって生理学的に変化することからもわかるように、肌は観察されるヒトの印象や健康状態を反映する重要な視覚情報です。加えて、肌の光沢といった視覚的質感情報も肌全体の印象に寄与することがわかってきており、視覚系は、肌の明るさや色分布などの手がかり情報を用いて、肌の光沢を推定すると考えられています。しかし、視覚系がどのような手がかりをもとに肌の潤い・乾燥を知覚しているかは、ほとんど知られていませんでした。
そこで研究チームは、どのような視覚的手がかりが肌の潤い・乾燥知覚に影響を与えるかを調査する心理物理実験を実施しました。実験にはヒトの顔やほほ、眉の画像に加え、それらの画像の明るさ情報を操作した画像刺激を用意しました。実験参加者は、呈示された画像刺激に対して、潤い・光沢・魅力の3つの視覚属性について、とても低い(1)からとても高い(5)まで5段階で評定するように求められました。周囲の明るさによって肌の見え方が変わらないように、実験は一定の明るさにコントロールされた暗室内で行われました。
実験の結果、肌の潤い感と画像の明るさの分散との間に負の相関が確認されました。そして、明るさの高空間周波数成分を高めた(より明るくした)肌画像は、そうでない肌画像と比較して、より乾燥しているように知覚されることがわかりました。これは、強調された白い線や局所的なコントラストが潤い知覚を減少させたのではないかと考えられます。このような見た目の変化は、皮膚の乾燥による白い筋の出現や毛穴の強調といった、乾燥に伴う皮膚の生理学的現象とよく似ていました。
本研究の共同第一著者である情報・知能工学専攻博士後期課程 1年長谷川友哉氏は、「ヒトの肌は個々人、日々によって印象が異なりますが、観察者はどのような手がかりをもとにそれらを判断しているのでしょうか。知覚された潤い感をもとに画像の特徴を調べれば、肌の潤いや乾燥に寄与する視覚的手がかりを見つけられるのではないかと考え、本研究を着想しました」と説明しています。
<今後の展望>
本成果では、肌の潤い感の減少、すなわち乾燥に寄与する視覚的手がかりを明らかにしました。一方、肌の潤い感の増加に関わる視覚的手がかりはまだまだ未解明な部分が多いため、今後さらに検証していきたいと考えています。
<謝辞>
本研究はJSPS科研費 JP22K17987, JP20H05956, JP20H04273の助成を受けたものです。本研究はピアス株式会社との共同研究によって実施されました。
<論文情報>
Hasegawa, Y.†, Tamura, H.†*, Kanematsu, T., Yamada, Y., Ishiguro, Y., Nakauchi, S. & Minami, T. (2025). Visual cues for moisture perception of facial skin: A pilot study on the effects of enhancing high-spatial-frequency components of skin lightness to decrease perceived moisture levels in young Asian observes, Journal of the Optical Society of America A, 42(5), B23-B33, https://doi.org/10.1364/JOSAA.536898.
†These authors share first authorship of this work. *Corresponding author.
Journal
Journal of the Optical Society of America A (JOSA)
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Visual cues for moisture perception of facial skin:
Article Publication Date
17-Dec-2024