1 . 研究分野の背景や問題点
アレルギー疾患や免疫学の分野では、多分野的なアプローチが必要不可欠です。その原因として、アレルギー疾患の多くが人生の長い期間にわたり症状を呈することが挙げられ ます。これらの疾患は眼、耳、皮膚、鼻、呼吸器、消化器、腎、中枢神経など、複数の臓器にまたがる症状を引き起こすため、診療において複数の診療科の併診が必要になる場合 があります。また、小児期から成人期までにかけて、疾患管理を担う診療科が変遷することも少なくありません。 このような疾患の複雑性と幅広い影響を踏まえ、アレルギー疾患対策基本法に基づくアレルギー疾患対策の推進、および免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略が策定されています。この戦略は、免疫アレルギー疾患研究の現状を正確に把握し、疫学調査、基礎病態の 解明、治療開発、臨床研究を長期的かつ戦略的に進めるための具体的な研究事項を提示しています。 本研究は、こうした国内の枠組みをふまえ、国際的な視点から研究チームの専門性や分野横断的な多様性が研究成果にどのように影響を与えるかを分析することを目的としました。 アメリカ NIH 、イギリス MRC 、日本 JSPS の 3 つの主要な研究資金提供機関を対象とし、 各機関が異なる文化的・政策的背景のもとでどのように成果を生み出しているかに注目しました。
2. 研究内容・成果の要点
研究チームの構成がどのように研究成果に影響を与えるのか。これまで曖昧だったこの 課題について、アレルギー・免疫学分野を対象に詳しい分析を行いました。本研究では、 アメリカの国立衛生研究所( NIH )、イギリスの医療研究評議会 MRC )、そして日本の科学研究費助成事業( JSPS )の基盤研究 A )から資金提供を受けた合計 33 チーム( 6356 件の 論文)を対象に、研究チームの多様性と成果の関連を調査しました。
チーム構成の多様性を測る3つの指標
研究チームの多様性は、研究分野の広がりを示す「ASJC コード数」、研究分野のバランスを示す「Shannon Wiener Index」、新たに開発した分野間の格差を示す「Omnidisciplinary Index( o-index )」を用いて評価。一方、研究成果は、論文の総数(研究の量)、引用数の 多い上位 1 %の論文数(研究の質)、および上位 10 %の論文数(研究の厚み=持続性)で評価しました。
分析の結果、 アレルギー研究の分野は高い水準 にあり、学際性が重要な役割を果たしていましたが、 日米英のチーム間で多様性指標に大きな差は見られませんでした 。しかし、 研究チーム構成の多様性と研究成果との関連性には違いが見られました。 今回 、JSPS については基盤研究( A )領域のアレルギーに関係する研究チームを解析していますが、これらのチームの間 では比較的 専門性の高いチーム構成が研究成果に貢献していました。 一方、NIH や MRC では分野横断的な多様性が研究の量と質の向上に寄与している傾向が見られました。この結果は、国ごとの研究環境や資金提供プログラムの目的に応じたチーム構成が 、研究成果に与える影響の違いを示唆しています。 また、チーム多様性の解釈はその定義によって異なることも明らかになりました。 NIH や MRC では、異なる分野の研究者をチームに迎えることが成果向上に寄与する一方、 JSPS では各分野で深い専門性を持つメンバーが重要な役割を果たしていることが示唆されました。 今後、これらの指標を 含めた複数の指標を統合的に評価することで、チームの多様性が研 究成果に与える影響をより深く理解することができると考えられます。
3 . 今後の展開と社会へのアピールポイント
本研究は、異なる国や研究環境においてチーム多様性が研究成果に及ぼす影響を定量的に評価したものであり、研究チームの構成戦略を最適化するための一助となる知見を提供します。これにより、アレルギーや免疫学の分野だけでなく、他の多分野にまたがる研究領域においても、多様な視点を取り入れたチーム構成が科学的進展とイノベーションの促進につながることが期待されます。研究資金の効率的な活用や科学政策に対する示唆も含め、本研究の成果が今後の科学技術発展に寄与することが期待されます。
Journal
World Allergy Organization Journal
Method of Research
Data/statistical analysis
Subject of Research
People
Article Title
Research team diversity impacts scientific output in allergy and immunology programs
Article Publication Date
12-Dec-2024
COI Statement
The authors have no actual or potential conflicts of interest to declare.