News Release

2 型糖尿病およびそれに伴う脂肪蓄積や線維化を改善する新たな治療薬候補の発見

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

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HPH-15 offers multiple benefits for managing Type 2 diabetes, including effective blood glucose control, reduced risk of lactic acidosis, improved insulin resistance, and suppression of fat buildup and fibrosis in the liver and fat tissue, with these effects observed in studies using muscle, liver, and fat tissue models. These properties make HPH-15 a potentially more effective treatment for Type 2 diabetes.

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Credit: Hiroshi Tateishi, Eiichi Araki, Kumamoto University

「背景」
 2 型糖尿病は、遺伝的因子によるインスリン分泌能の低下、および環境的因子である生活習慣の悪化に伴うインスリン抵抗性惹起により、高血糖が慢性的に続く疾患です。この高血糖状態が長く続くと、網膜症・神経障害・腎症といった 3 大合併症だけでなく、心筋梗塞や脂肪肝といった合併症の発症リスクが高まります。そのため、生活習慣病である 2型糖尿病を治療しその合併症を予防することは、今後の医療の大きな課題です。

 新しい作用機序をもつ糖尿病治療薬が続々と上市されていますが、1960 年代に開発されたメトホルミンは現在でも糖尿病治療の第一選択薬の1つとして用いられています。メトホルミンが重要視されている理由は、その AMPK 活性化作用が運動時の糖代謝と同じメカニズムであり、体重が増えにくいことや低血糖になりにくいこと、膵臓に負担がないことが挙げられます。また、AMPK の活性化は糖代謝だけではなく脂質代謝にも作用を及ぼすため、脂肪肝や脂質異常症といった合併症の予防にも効果的です。しかしながら、メトホルミンには乳酸アシドーシスや高容量投与時の消化器障害などが報告されており、これらの点の改良が求められています。我々の研究グループは、過去に HPH-15 という低分子化合物が抗線維化作用を有すること、さらにはその作用とは独立して AMPK を活性化することを見出しておりました。これらの背景から、二つの作用を併せ持つHPH-15 が 2 型糖尿病の新規治療薬として有効ではないかと考えました。そこで本研究では、糖代謝に関与するモデル細胞と高脂肪食肥満モデルマウスを用いて、HPH-15 の治療効果を評価しました。

「研究の内容と成果」
 まず初めに、糖代謝に関与する臓器のモデル細胞(筋肉:L6-GLUT4myc、肝臓:HepG2、脂肪:3T3-L1)を使用して、HPH-15 による AMPK の活性化量を調べました。AMPK とリン酸化された AMPK(pAMPK) の発現量をウエスタンブロットで測定し、 pAMPK/AMPK の比を算出して AMPK の活性化の指標としました。その結果、HPH-15(10 または 50 µM)は全ての細胞株において AMPK を活性化しており、その効果はメトホルミンの 2 mM と同程度でした。従って、HPH-15 はモデル細胞においても AMPK 活性化作用を有していることが明らかになりました。

 次に糖尿病モデルマウス(高脂肪食肥満マウス)に対する検討を行いました。 HPH-15 は、オリーブ油に混ぜて 1 日 1 回経口投与しました。高脂肪食食餌継続下で HPH- 15 を 10 mg/kg または 100 mg/kg を投与したところ、投与開始から 7 日後より随時血糖値の低下が確認され、4 週後には 190 から 140 mg/dl まで低下しました。AMPK 活性化剤はインスリン抵抗性や耐糖能の改善効果も有するため、薬剤投与開始より 28 日後のマウスを使用してインスリン負荷試験を行いました。その結果、高脂肪食により誘導されるインスリン抵抗性をHPH-15 は有意に改善していました。さらに、高脂肪食食餌によるマウス体重増加への影響を評価したところ、HPH-15 は体重増加を有意に抑制していました。以上の結果から、HPH-15 は個体レベルにおいても糖代謝改善作用および抗肥満作用を有していることが明らかになりました。

 本モデルマウスは脂肪肝および脂肪組織の肥大化を誘発することが知られています。肝臓の脂肪レベルおよび脂肪組織の肥大化は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色により評価しました。その結果、HPH-15  はメトホルミンよりも強力に脂肪肝を改善しました)。また、HPH-15 は高脂肪食食餌による脂肪組織の肥大化も抑制していました。以上のことから、HPH-15 は高脂肪食により誘導される脂肪肝および脂肪組織の肥大化を強く阻害していることが明らかになりました。

「展開」
 本研究により、HPH-15 が AMPK 活性化による血糖降下作用だけでなく脂肪蓄積および脂肪組織の肥大化を抑制することが明らかになりました。組織への過剰な脂肪蓄積は、糖尿病合併症のリスク因子であるため、脂肪と血糖値の減少効果を併せ持つHPH-15 は新規 2型糖尿病治療薬として有用であることが期待されます。また 2 型糖尿病患者では組織の線維化が促進されることが知られており、臓器不全といった重篤な症状を呈します。HPH-15は肝臓と脂肪組織に対する抗線維化作用も有する点でメトホルミンと異なり、糖尿病に伴う肝硬変や NAFLD/NASHをはじめとする肝合併症にも有用な薬剤として期待されます。


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