News Release

<妊娠中のフェノールばく露と子どもの喘息発症の関連>について

A groundbreaking study from Kumamoto University

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

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By measuring the concentrations of 24 phenols—including nitrophenol, parabens, bisphenol, octylphenol, and nonylphenol—in urine samples collected during the first trimester of pregnancy, and performing logistic regression analysis, researchers identified that high exposure to butylparaben and low exposure to 4-nonylphenol are risk factors for asthma development in children. These findings offer valuable insights for developing recommendations on prenatal phenol exposure.

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Credit: Shohei Kuraoka, Masako Oda,Kumamoto University

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成 22(2010)年度から全国で約 10 万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。

 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された 15 の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

 フェノール類は、芳香族置換基上にヒドロキシ基を持つことを特徴とする有機化合物です。フェノール類のアルキル化によって生成される合成有機化合物であるアルキルフェノールは、非イオン性界面活性剤として一般的に使用されています。そのためアルキルフェノールは洗    浄剤、家庭用品、化粧品など多くの製品に含まれています。代表的なものとして、オクチルフェノールや 4-ノニルフェノールは、下水処理工程で使用されており、主に土壌や河川堆積物などの水生環境中に存在することが分かっています。また、さまざまな種類の食品や飲料水にも含まれていることが確認されています。4-ノニルフェノールを含む多くのアルキルフェノールは、エストロゲン(女性ホルモン)様作用を持つ内分泌かく乱物質のひとつです。そのため、他の環境内分泌撹乱物質と同様に、アルキルフェノールによる人体への健康被害についても様々な議論がなされてきました。

 フェノール類による人体への影響については様々な報告があり、近年はアレルギー疾患への関与もあるのではと考えられています。しかし、実際にヒトへの影響を解析した研究は少なく、特に妊娠中のアルキルフェノールのばく露についても詳しいことは分かっていませんでした。そこで、今回の研究では妊娠中のフェノール類ばく露と子どもの喘息発症の関連について解析を行いました。

 本研究では妊娠初期検診時の尿でフェノール類の濃度を測定された母親と 4 歳時の詳細調査を実施された子どもを対象とし、3,513 組について解析を行いました。母親の尿検体から 24 種のフェノールを測定したところ、フェノールの中でパラベンに分類されているメチル

 パラベンやエチルパラベン、プロピルパラベンなどが高頻度で検出されました。特にメチルパラベンはほとんどのサンプルで検出されており、測定値も高いことが明らかになりました(平均値 267.7 ng/ml)。一方でペンチルパラベンやヘプチルパラベンなどは今回の解析対象者からは一切検出されませんでした。

 母親の尿中フェノール測定の結果、フェノール毎にその分布が大きく異なっていることが分かりました。まずは各フェノールにおいて、検出された集団と検出されなかった集団で子どもの喘息発症に差があるかを解析しましたが、統計学的に明らかな差を示すものはありませんでした。次に多くの母親で検出されたフェノールにおいて、上位 10%の集団とそれ以外の集団で喘息発症について検討したところ、ブチルパラベンの上位 10%の集団では喘息発症のオッズ比が 1.54(95%信頼区間 1.11-2.15)と高いことが分かりました。これは妊娠中のブチルパラベンの高度ばく露が子どもの喘息発症と関連することを示しています。

 また、フェノールは女性ホルモン作用を持つ内分泌かく乱物質として知られているので、その影響に男女差があるかもしれないと考えられています。そこで、男児と女児それぞれについての影響を解析しました。結果として、4-ノニルフェノールが検出された女児の喘息発症オッズ比が 0.65(95%信頼区間 0.25-1.70)であったのに対し、男児のオッズ比は 2.09(95%信頼区間 1.20-3.65)と高いことが分かりました。これは妊娠中の 4-ノニルフェノールばく露は男児の喘息発症と関連することを示唆しており、その影響には男女差があることを示しています。

 本研究では母親の尿中フェノール類測定結果と出生した子どもの喘息発症の関連を解析し、ブチルパラベンと 4-ノニルフェノールが喘息発症と関連を明らかにしました。これは妊娠 中のフェノールばく露に関する安全基準を考える上で非常に有用です。しかし、今回の研究 では子どもの体内にどの程度のフェノールが存在しているのかを直接的には評価していません。また、喘息発症との関連が疑われたものの、測定感度以上で検出された参加者数が少なく有意な関連性を見出すことができなかったものもあります。フェノールが子どもの健康に与える影響については更なる研究が必要です。

 妊娠中のフェノールばく露が子どもの健康にどのように影響するのか引き続き調査を継続していきます。ブチルパラベンや 4-ノニルフェノールが喘息発症のリスクを高めるメカニズムの解明だけでなく、どのような環境や生活習慣がそれぞれのフェノールばく露につながるのかを明らかにすることで、妊娠中の過ごし方に関する適切な提言につながると考えられます。

 本調査の継続により、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。

※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。


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