News Release

マウスのしっぽが、バランスと神経変性疾患の研究に新たな知見をもたらす

新たな実験セットを用いた研究で、健康なマウスがどうやってしっぽでバランスをとっているのかが明らかになりました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

歩行課題実行中のマウスの動きを追跡・モデリングした

image: 歩行課題実行中のマウスの動きを追跡・モデリングした。同側性運動(IL)は、尾が傾斜方向と同じ側にあることを指し、反対性運動(CL)は尾が反対側にあることを指す。B)傾斜前、傾斜中(グレー網掛け)、傾斜後の尾(赤)と胴体(緑)の角度。尾は明らかにどちらかの方向に約90度回転している。C, D) 尾部回転は体幹の傾きよりも大きな角運動量を発生させることを示す生体力学的モデル。これにより、傾きの動きを相殺することができる。 view more 

Credit: ラカヴァ他

マウスにはなぜしっぽがあるのでしょうか?

この問いに対する答えは、それほど単純ではありません。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新たな研究により、マウスのしっぽはこれまで考えられていた以上に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。傾斜台、高速ビデオでの撮影、数学的モデリングを駆使した新たな実験セットにより、研究チームはマウスがバランスを保つためにしっぽを鞭(むち)のように振る様子を実証しました。この発見は、人間の身体のバランス問題に関する理解を深めるのに役立ち、多発性硬化症やパーキンソン病などの神経変性疾患の早期発見や治療に道を開くものです。

「マウスは、遺伝的、生物学的、行動学的に人間と類似しているため神経科学の分野では広く用いられていますが、その特徴である尾の役割については不明な点が多く残されていました」と、OISTの神経活動リズムと運動遂行ユニットに所属し、科学誌『Journal of Experimental Biology』に発表された本研究論文の筆頭著者であるサルバトーレ・ラカヴァ博士は説明します。「健康なマウスのバランス能力についてより深く理解し、その能力を評価する方法を改善することで、運動制御や安定性に影響を及ぼす疾患の背後にある神経学的メカニズムやその治療法について、より深く研究することができるでしょう。」 

尾を振ってバランスを取る

自転車で起伏の多い道や急カーブを走る際に私たちが体を傾けるように、マウスは尾を受動的なバランス補助として使っていると考えられてきました。「私たちは健康なマウスの観察に多くの時間を費やしました」とラカヴァ博士は振り返ります。「しかし、受動的なバランス補助としてではなく、マウスが尾を常に能動的に使ってバランスを維持していることを発見して驚きました」。研究チームは、マウスが、足元の表面が傾いた際にバランスを回復させるために、尾を傾きと反対の方向に非常に素早く回転させることを発見しました。尾は軽いとはいえ、素早く振り回すことにより、落下する方向と逆の方へと体を引き寄せるため、かなりの角運動量を生み出します。「私たちも、後ろに倒れそうなときに手に鞭を持っていたら、その鞭を素早く振ったら、その鞭の方向に体を引き寄せることができると思います。」

マウスは、バランスが急に変化した時だけでなく、幅の狭い台の上を渡る時にも、尾を使ってバランスを保つことが分かりました。その際、尾は体の動きとは反対方向に絶えず振られ、マウスが動く時のバランスの変化を緩和します。最も困難な場面では、尾は低い角度に保たれ、能動的な使用を補う形で、カウンターウェイトとして受動的にも使用されます。

これまで、マウスの尾がバランスを保つ役割を果たしていることについてはあまり理解されておらず、実験でも見落とされがちでした。「マウスは人間に似ているため、神経科学において非常に重要な動物ですが、私たちの研究は、人間にはない要素(例えば尾)を考慮することの重要性を示しています。その要素は、人間にも影響を与える病気の研究にも役立つからです」と、同研究ユニットを率い、論文の責任著者であるマリルカ・ヨエ・ウーシサーリ准教授は指摘します。本研究は、マウスの尾の能動的な役割を実証することで、健康なマウスのバランス能力をより正確に測定するための道筋をつけ、神経変性疾患など、バランスに影響を与える様々な病気の研究に確かなベンチマーク(基準)を設定するものです。

マウスと研究への挑戦

研究チームは、マウスの尾の役割を解明するだけでなく、マウスのバランス能力を評価する新たな実験セットも開発しました。ビームウォークテストと呼ばれる従来の標準的な方法では、様々な条件下で、マウスに幅1センチの台を渡る課題を課します。マウスが台から落ちた場合、バランスを崩したと見なされます。しかし、健康なマウスにとっては、このテストは楽勝です。ウーシサーリ准教授は、「ほとんどのマウスは、木の上で暮らす樹上生活動物です。彼らは細い枝のような難所を素早く渡ることに適応しています。私たちの新しい実験セットでは、この点を考慮して、マウスに、さらに幅の狭い台と突然の動きに挑戦させています」と説明します。 

新しい実験セットでは、1センチから4ミリまで、いくつかの異なる幅の台を使用し、さらに10度から30度のランダムな回転を左右どちらかの方向に加えます。また、それらの台の上にとどまる能力としてバランスを評価するのではなく、マウスの体が足の上にどれだけうまく位置づけられているかを測定の基準に、バランスを再定義しました。こうした動きの微妙なニュアンスを捉えるため、研究チームは、生体力学モデルを作成しました。これは、マウスが台の上を移動する際に、体の様々な部位の位置を追跡するように訓練されたニューラルネットワークに基づいています。このモデルにより、研究チームは、体の傾きに対する尾の角運動量を計算し、それが傾きにどのように対抗しているかを明らかにすることができます。

ラカヴァ博士が、「患者がまっすぐ歩くことが困難になるほど深刻な状態になる前に、バランス能力の問題を発見し、治療できるようになりたいと考えています。そのために、私たちは、マウスにも同じ基準を設定しました」と説明するように、本研究では、マウスが動く際の尾の役割を実証し、健康なマウスを使った実験の難易度を上げることで、バランス能力の微妙な変化の評価方法が向上し、神経変性疾患の初期症状の研究で、より高い精度を出すことが可能となりました。 


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