東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授と森崇寧助教、藤丸拓也非常勤講師の研究グループは、日本国内27施設の協力を得て、家族内に同じ病気を認めない成人の多発性嚢胞腎患者157名を対象に網羅的遺伝子解析を行い、IFT140の変異を原因とする患者が7名いることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構およびクラウドファンディングの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Kidney International Reportsに、2024年7月16日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
指定難病である多発性嚢胞腎の中で、成人に多く認められる常染色体顕性多発性嚢胞腎※1の原因は、PKD1またはPKD2という遺伝子の変異によると考えられています。しかし、多発性嚢胞腎患者のうち、家族内に同じ病気を認めない患者が約1割いることが知られており、これらの患者の中には、PKD1またはPKD2の遺伝子に変異を認めない患者がいることが分かっていました。
近年の遺伝子解析技術の進歩により、PKD1やPKD2以外にも多発性嚢胞腎の原因となる遺伝子が明らかになりました。しかし、家族歴がない多発性嚢胞腎患者において、従来の原因遺伝子であるPKD1やPKD2に変異を認めない患者は、どのような遺伝子が原因で病気を発症しているかは分かっていませんでした。
【研究成果の概要】
本研究は、日本国内27施設の協力を得て、家族歴がない成人の多発性嚢胞腎患者157名を対象に網羅的遺伝子解析※2を行いました。その結果、7名(4.5%)に、多発性嚢胞腎の新たな原因遺伝子とされているIFT140に変異を認めました。また、51名に従来の原因遺伝子であるPKD1またはPKD2に変異を認めました。さらに、IFT140を原因遺伝子とする患者は、従来の原因遺伝子であるPKD1を原因遺伝子とする患者と異なり、腎機能障害の進行が緩やかで、腎臓にできる嚢胞の形も特殊であることが分かりました。
【研究成果の意義】
今まで日本ではIFT140を多発性嚢胞腎の原因遺伝子とする報告はありませんでした。しかし、家族歴がない多発性嚢胞腎患者では、IFT140を原因遺伝子とする患者が約5%存在しており、従来の原因遺伝子であるPKD1やPKD2に次ぐ、3番目に多い原因遺伝子であると考えられます。本研究によって、日本でもIFT140を原因遺伝子とする患者が比較的多く存在していることがわかりました。この結果は、家族歴がない成人の多発性嚢胞腎患者の診断だけでなく、薬剤治療適応の決定や遺伝カウンセリングなど様々な臨床への還元が期待されます。
【用語解説】
※1常染色体顕性多発性嚢胞腎・・・・・・・・指定難病である多発性嚢胞腎の1つであり、両側の腎臓に嚢胞(液体のつまった袋)ができ、それらが年齢とともに増えて大きくなっていく遺伝性の病気である。日本の患者数は約31,000人で、約4,000人に1人が発症すると推定されている。病状の経過には、個人差が大きいといわれているが、60歳までに約半数が末期腎不全となり、透析療法や腎臓移植が必要となる。
※2網羅的遺伝子解析・・・・・・・・次世代シークエンサーという機械を用いて、複数の遺伝子を同時に調べる遺伝子解析手法。
Journal
Kidney International Reports
Article Title
Genetic Analysis Sheds Light on The Role of IFT140 in Polycystic Kidney Disease