東京大学 生産技術研究所 着霜制御サイエンス社会連携研究部門/同大学 先端科学技術研究センター 田中肇シニアプログラムアドバイザー(特任研究員)兼同大学名誉教授とサン ガン特任研究員(研究当時)の研究グループは、水の結晶化が内部よりも表面付近で起こりやすいことを分子動力学シミュレーションで示すとともに、その物理的な機構を明らかにしました。
氷の核形成は、自然や産業において重要なプロセスですが、水の自由表面の役割は未だ明らかではありませんでした。この問題に対処するため、研究グループは、水の粗視化モデルであるmW waterについて分子動力学シミュレーションを用いて、氷の核形成の過程を微視的レベルで詳しく調べました。その結果、意外なメカニズムを介して自由表面が氷核形成を促すことを見出だしました。具体的には、表面張力に起因した負の圧力が、0型氷のような角度対称性と水分子が水素結合で5角形状につながった5員環を含む独特の環構造をもつ局所的な氷の前駆体構造の形成を促進し、それが氷核形成に導きます。水が固体と接触している場合には氷の結晶核が固体表面に直接接触した形で形成されるのに対し、この負圧誘起メカニズムはやや表面の少し内側で氷核形成を促進します。この発見は、水の結晶化が表面から起きるのか内部から起きるのかという長年の論争を解決しただけでなく、自由表面誘起の氷生成の物理的なメカニズムとその経路について新たな分子レベルの理解を提供します。この成果は、雲の生成、食品技術など、氷核形成が重要な役割を果たす広範な分野に波及すると期待されます。
Journal
Nature Communications
Article Title
Surface-induced water crystallization driven by precursors formed in negative pressure regions
Article Publication Date
26-Jul-2024