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「 遅発性複合免疫不全を呈する18q欠失症候群 」 ― 18q欠失症候群患者では、定期的な細胞性/液性免疫能の評価を提唱 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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Two patients with 18q deletion syndrome present with not only B-cell abnormalities, but also T-cell abnormalities.

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Credit: Department of Child Health and Development, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼 弘和寄付講座教授と発生発達病態学分野の友政 弾大学院生らの研究グループと、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野の西川 拓朗准教授、岡本 康裕教授らの研究グループは、やまびこ医療福祉センター(鹿児島市)、広島大学との共同研究で、成人期になって易感染性を示した18q欠失症候群の患者で、遅発性複合免疫不全症を生じていることを初めて明らかにしました。この研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunology(ジャーナル・オブ・クリニカル・イムノロジー)に、2024年6月19日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 18q欠失症候群は、18番染色体長腕※1の一部分が失われること(欠失)を原因とする先天性の染色体異常症です。4‐5.5万出生に1人程度の発症とされます。染色体欠失部位に存在していた、いつくかの遺伝子の機能が失われることが症状の原因になると考えられます。症状としては、精神運動発達遅滞、先天性大脳白質形成不全症※2、特徴的な顔立ち(顔の正中の低形成)、筋緊張低下、低身長、目の異常、難聴、口蓋裂、骨格の異常、心疾患等がみられます。18q欠失症候群の根本的な治療法はないため、それぞれの症状に応じた対症療法が行われます。生命予後は重症感染症や心疾患などの合併症がなければ、良好とされます。また、18q欠失症候群患者は、先天性免疫異常症(inborn errors of immunity. IEI)※3の一つでもあり、50~90%の患者で1種類以上の免疫グロブリンの低下があり、液性免疫不全症※4を呈します。しかし、通常、それ以上の重度の免疫能低下を呈することはないとされていました。

【研究成果の概要】
 これまで感染症罹患がほとんどなかった18q欠失症候群である28歳男性(患者1)が、ニューモシスチス肺炎を発症しました。もう一人の患者(患者2)は48歳女性で多発リンパ節腫大と肺炎の精査の過程の染色体検査で、18q欠失を認めました。アレイベースゲノムハイブリダイゼーション解析※5で両患者の精査を行なったところ、患者1では18q21.32-q22.3に、患者2では18q21.33-qterに欠失を認めました。
 2人の患者の免疫状態を調べたところ、低ガンマグロブリン血症、メモリーB細胞とナイーブCD4+および/またはCD8+細胞数の減少、CFSEによるT細胞分裂試験※6での反応低下、T細胞受容体のレパトア解析での偏り、T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC: T-cell receptor recombination excision circles)※7およびIgκ鎖遺伝子再構成断片(KREC: Igκ-deleting recombination excision circles)※8の低レベルが認められました。それらの結果から、両患者は液性免疫不全症のみなならず細胞性免疫不全症※9を合併しており、両患者は遅発性複合免疫不全症(LOCID: late-onset combined immunodeficiency)と診断されました。そして、両患者において、全エクソーム解析やターゲットシーケンス等の遺伝子解析を追加しましたが、18q欠失症候群以外にLOCIDを生じるような遺伝子変異は認められませんでした。
 

【研究成果の意義】
 18q欠失症候群の患者の一部は、低ガンマグロブリン血症を主とする液性免疫不全症を呈することが知られていましたが、この疾患はさらに細胞性免疫不全症を合併し、より重症な遅発性の複合免疫不全症を引き起こすことがあることが、本研究で明らかになりました。今回初めての報告でしたが、単に免疫状態がきちんと評価されていないだけの可能性があります。したがって、18q欠失症候群の患者は、定期的に細胞性/液性免疫能の検査を受けた方が良いと考えられます。

【用語解説】
※1染色体長腕
染色体は動原体と呼ばれるくびれを境に短腕(p)と長腕(q)に分けられる。
※2先天性大脳白質形成不全症
神経細胞の軸索と呼ばれる長い突起に巻き付く髄鞘(ずいしょう)とよばれる構造が正常に形成されず、大脳の白質に異常が現れる症状。神経系の症状が引き起こされる原因の一つとも考えられている。
※3先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI) 
従来原発性免疫不全症と呼ばれていたが、易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併も多くみられることから、疾患概念の変化とともに用語も変更され、500近くの原因遺伝子が知られている。
※4液性免疫
B細胞や形質細胞によって産生される抗体(免疫グロブリン)を中心とした免疫機構である。
※5アレイベースゲノムハイブリダイゼーション解析
検査サンプルと正常なDNAを競合的に検査して両者のDNAの量差から異常を判定する染色体検査の手法である。
※6CFSEによるT細胞分裂試験
生細胞蛍光染色色素であるCFSEを利用して、T細胞をPHAという物質で刺激をして分裂能を評価する試験。細胞性免疫能の評価法の一つである。
※7T細胞受容体遺伝子再構成断片
体内でT細胞が産生されるときに生成される環状DNAのこと。血中に安定して存在するため、新生T細胞のマーカーとして利用可能である。
※8Igκ鎖遺伝子再構成断片
体内でB細胞が産生されるときに生成される環状DNAのこと。血中に安定して存在するため、新生B細胞のマーカーとして利用可能である。
※9細胞性免疫
T細胞やナチュラルキラー細胞などの免疫担当細胞自体による免疫機構である。
 


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